東大が「真っ先に共産主義を唱える学校」になると予言した福澤諭吉 「反・東大」の思想史
■露骨な学歴差別の時代
同書では、早大の創設に東大学生らが関わっており、官学廃止を唱えた福澤のような東大批判の明快さはなく、アンビバレントな東大観が特徴的だったこと、「官吏の東大、実業界の慶応、新聞記者・政治家の早稲田」といったカラーが明確にあったこと、学問で東大を凌駕しようとした一橋大、東大への対抗心を燃やした京都大などの動きが、当時の文献を基に描き出されている。
尾原さんは執筆の動機に絡み、「今ほど学歴差別が露骨に語られる時代はなかったのでは」と話す。ひと時代前ならインターネットの掲示板に書かれた陰口は、交流サイト(SNS)で一般に可視化され、テレビで「東大生」を看板にする番組も珍しくない。本書の執筆で学歴差別意識の源流を追って調べていく過程で、「東大に対するリアクションで世の中ができあがっていることに改めて気づいた」という。
幕末にあった私塾は、明治の近代化の中で大半が姿を消し、慶応義塾も翻弄された。「あと100年時間があれば、私塾も慶応も違った発展の仕方があったのでしょう。しかし、とにかく高速近代化に対応するしかなかった。その辺のいびつさが、今のいろんな問題の源流にあるのかなと感じました」と尾原さんは語る。(鵜野光博)