銀行系の取引所、暗号資産への信頼を取り戻せるか?
今月はじめ、12人の陪審員がFTXの元CEOサム・バンクマン-フリード氏を7つの詐欺関連容疑すべてで有罪とし、数カ月にわたって続いた業界の見直し期間にひとつの終止符が打たれた。 お粗末なリスク管理やガバナンス、監督不行き届きによる2022年の破綻やスキャンダルの数々を受け、暗号資産(仮想通貨)業界は構造そのものが変化し、多くの人々がその将来を考えているなか、新たな登場人物が前面に出てきている。 新たな登場人物は、新しいようで実はそれほど新しくはない。暗号資産が当初、距離を置こうとしていた金融機関が今やニュースを独占している。金融大手のフランクリン・テンプルトンは今年、トークン化されたマネー・マーケット・ファンド(MMF)を立ち上げ、現実資産(RWA)のトークン化ブームに火をつけた。 一方、ドイツ銀行やHSBCを含む他の金融機関も、ブロックチェーンベースの金融商品を市場に投入する意向を示したり、立ち上げたりしている。 ルールは変わりつつある。「機関投資家グレード」が新たな標準となりつつあるのだ。投資家は今、イールドファーミングやステーキングなどのかつて魅力的だった商品よりも、トークン化された既存商品に関心を寄せている。DeFi(分散型金融)は率直に言って、すっかり過去のものになった感がある。では、トレーディングに携わる私たちにとって、それは実際に何を意味するのだろうか?
機関投資家グレードの再定義
以前、機関投資家グレードという概念は、現物(スポット)取引や信用取引、あるいはパーペチュアル先物など、デジタル資産では従来見られなかった新しい契約形態など、インフラというよりもむしろ商品に関するものだった。 それが昨年以降は、より現実的なもの、すなわち安全性を意味するようになった。 FTX後には潮目が変わった。機関投資家であろうと個人投資家であろうと、リターンよりも、信頼が重視されるようになった。「トラストレス」をコアな信条として掲げるブロックチェーンテクノロジーに支えられた業界としては、少し直感に反するようにも感じられる。 銀行が支援する取引所にとって、信頼は顧客を引き寄せるものであり、ブランドへの信頼だけでなく、金融機関との提携に関連する既存の規制やコンプライアンスのフレームワークへの信頼でもある。これは現実には、同じ法域の中、同じライセンスで運営されている他の中央集権的取引所との唯一の正当な違いとなっている。 イギリスやシンガポールなど、暗号資産取引に明確な規制体制が存在する国では、銀行の後ろ盾があるという点は、コンプライアンスのドアに足を踏み入れるための別の足がかりといえる。 特にカストディに関して顕著だ。取引所における顧客資金と自社資金の分離に関する議論の激化は今年、熱を帯び、特に最も安全な取引所を見極めようとする機関投資家の間で監視の目が厳しくなった。 実際、調査対象となった機関投資家の90%は、暗号資産カストディに関ついて、TradFi(伝統的金融)をより信頼している。多くの場合、これらのカストディソリューションは、ブローカーから根本的に分離された設計になっている。 例えば、スタンダード・チャータード銀行は、SBIとノーザン・トラストの支援を受けて、機関投資家向けの暗号資産カストディアンとして、Zodia Custodyを立ち上げた。その姉妹会社である機関投資家向けの暗号資産の取引と仲介の場であるZodia Marketsは、完全に独立した会社であり、異なる株式保有構造を持っている。ノンカストディアル取引機能を特徴とし、機関投資家顧客は、信頼できるカストディアンのネットワークから資産の保有先を選択できる。