自民総裁選で「予想合戦」に終始するメディアに問題はないのか…政策は二の次で「ただの人気投票」に
正しい現状認識
当初注目されていなかった候補が現実的かつ希望を与える政策をバシバシと出しても、メディア報道と情勢調査は政策よりも候補者の人気にスポットライトを当てる。総裁選については元々河野太郎氏が「将来の首相」などと呼ばれていたが、マイナンバーカードを巡る強情な答弁や、自身に批判的なユーザーをXでブロックするといった大人気ない行いなどにより、人気を落とした。「何を言うか、つまりは政策」を人々が咀嚼した結果だろう。これが選挙では正しい姿であるべきなのである。 それでは、9月14日に日本記者クラブで行われた討論会で各候補がフリップに書いた基本的主張を振り返ってみよう。順番はNHKのサイトで紹介された写真の通り。 高市氏:経済成長 小林氏:世界をリードする国へ 林氏:実感できる経済再生 小泉氏:政治改革 上川氏:誰一人取り残さない日本の新しい景色 加藤氏:国民の所得倍増 河野氏:改革の実績 熱さと速さ 石破氏:全ての人に安心と安全を 茂木氏:「増税ゼロ」の政策推進 こうした主張を見るだけでも、誰が自分の考える理想に近いかは分かるもの。似たような主張に一見見えるのが高市氏と林氏の主張だ。高市氏の「経済成長」は「今も成長していると思っているのか?」という疑問を抱いた。林氏は「現在は低迷している」と言っており、現状認識がより正しいな、と思った。
情勢調査よりも自分の意見を
その一方で、「夢が壮大過ぎるよ」、と思ったのが小林氏。世界屈指の少子高齢化国家で、GDPはまもなくインドにも抜かれるとの分析もある。英語を喋る人材も少ないし、今更世界をリードという文言は時代にフィットしていない。もう少し現実的になれないのかと思った。加藤氏の所得倍増についても「高度成長期じゃないんですよ!」という気持ちに。 小泉氏は「自分はクリーンだ」という自信があるから改革を言えるのだな、と感じ、河野氏はこれまでの言動を見ると「熱さと速さ」はややもすると「強引」にやるのでは、という懸念を覚えた。 上川氏と石破氏はリベラル寄りの政治家であることがここから分かる。茂木氏はかなり現実主義者なのではないだろうか。すでに国民は所得の40%ほどは税金や社会保険料に取られているため、「増税ゼロ」は国の支出を減らせば達成可能だなと思わせた。出馬表明の際に社会保障費は「年齢ではなく能力(収入)」によって決めると言っていたのだ。莫大なる医療費の状況を知っているからこその発言だろう。 都知事選のように候補者が多過ぎる場合はさておき、情勢調査で有利とされた候補以外の政策主張も我々はじっくりと見るべきなのである。総裁選では投票権がない人が大部分だろうが、来たる国政選挙に向け、各候補の政策を知ることができる良い機会。それは立憲民主党の代表選も同じである。情勢調査に流されるよりも、自分の意見をしっかり持つことが重要である。 中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) 1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。 デイリー新潮編集部
新潮社