「46歳のスレた僕でも泣いた…」 今期の大好評ドラマ「宙わたる教室」原作はなぜ胸を熱くさせるのか? ピストジャムが解説(レビュー)
2024年秋ドラマの中でも傑作との呼び声が高いのが、10月に放送開始した『宙わたる教室』(NHK総合)だ。 【画像】秋ドラマNo.1の呼び声高い『宙わたる教室』キャスト写真とわかりやすい相関図をチェック 主演の窪田正孝や小林虎之介、伊東蒼らキャスト陣の好演もさることながら、実話を元にしたという伊与原新の原作小説『宙わたる教室』(文藝春秋)にも注目が集まっている。 原作のストーリーは、夜間定時制の高校に集まった年齢も経歴もバラバラな4人が科学部を結成し、「火星のクレーター」を実験で再現して学会発表をめざすというもの。 原作を読んだ本好き芸人のピストジャム(46)は、年齢を重ねるにつれ滅多に泣かなくなっていたのに、思わず涙したという。 この作品の何が胸を熱くさせるのだろうか? 以下に、又吉直樹が編集長を務める文芸誌「第一芸人文芸部」創刊準備二号から抜粋・再編集して紹介する。 ***
46歳のすれた僕でも泣いた『宙わたる教室』原作小説
本を読んで泣いた経験があるだろうか? この数年、年間50冊ほど小説を読んでいるけれど、実際に涙がこぼれた作品は本当に少ない。目頭が熱くなる、くらいはたまにある。でも、泣くまでにはいたらない。今年46歳になるのだが、中年になると「はいはい、こういうパターンね」とか「これは感動させようとしすぎてて、ちょっとあざといな」とか、経験というか冷めた目線というか、どうしても雑念が入ってきて、感動はするけれど泣きはしない、ということが多くなった。こんな読みかたをしていたら作品に失礼だ、もっと物語を楽しまないと、と反省するのだけれど、無理に泣きにいくのも変な話なので、結局泣かない。 そんなすれた僕が泣いた。こういう物語に出会えるから本を読むのはやめられない。流したのは感動の涙。しかも中盤で。この作品との出会いに感謝したと同時に、自分がまだ本を読んで泣ける心を持っていたことに安心した。
原作のストーリーは? 10代から70代までさまざまな事情を抱えた生徒が描かれる
『宙わたる教室』の舞台は、新宿の定時制高校だ。働きながら通う岳人は21歳で、ドロップアウトした人生をなんとか立て直そうともがく。日本人とフィリピン人の両親をもつ40代の主婦アンジェラは、子供のころに学校に通えなかった生徒だ。起立性調節障害で不登校になり、定時制に進学した10代の佳純。中学卒業後すぐに集団就職し、そのまま働いてきた70代の長嶺も生徒の一人だ。このように、さまざまな事情を抱えた生徒たちが、理科教師の藤竹を顧問として科学部を結成する。そして、学会での発表を目標に「火星を再現する」という実験に挑戦していく。 岳人、アンジェラ、佳純、長嶺。この生徒4人それぞれのエピソードが1章から4章まで章ごとに書かれているのだが、どれも胸アツ。自らを「不良品」とさげすんでいた岳人が、藤竹の言葉で変わる瞬間。自分の夢より他人の夢を叶えさせてあげようとするアンジェラの母心。SF好きで、アンディ・ウィアーの小説『火星の人』に影響されて、自身が保健室にこもる日々を来室ノートに綴っていた佳純の成長。学歴なんか必要ないと言う長嶺が、いつも一番前の席で誰よりも熱心に授業を受け、まわりが迷惑に思うほど質問していた理由。