毎晩が立食パーティ、酒屋立ち飲みの楽しみ方/大阪
春は転勤の季節。全国から大阪に着任してきたビジネスパーソンたちが驚くのが、立ち飲み店の盛り上がり方。まちの酒屋に男たちが群がり、愉快そうに語り合っています。うらやましい限りですが、いざ入るとなると気後れし、二の足を踏んでしまいそう。そこで、大阪酒屋立ち飲みを、気楽に楽しめる入門ガイドをまとめてみました。
パワー全開「酒販立ち飲み一体型」
毎晩の盛り上がりには、ちゃんと理由があります。まず立ち飲み店は大きくふたつのタイプに分類できます。ひとつは「商業店舗型」。いすを取り払ってスペースを効率良く使い、酒を割安で提供するカウンター方式の店舗で、全国の駅前などに点在しています。近年は若い女性が利用しやすい、南欧バル風の洗練された店も増えてきました。 もうひとつが「酒屋併営型」。まちの酒屋さんが家庭や飲食店などへ酒類を販売する傍ら、店内で立ち飲みコーナーを設けているタイプです。首都圏を含め全国的に珍しく、大阪らしい立ち飲み文化を醸成しています。「酒屋併営型」はさらにふたつに分かれます。酒販部門と立ち飲み部門の出入り口が異なる「酒販立ち飲み分離型」と、分離されていない「酒販立ち飲み一体型」です。この店舗と顧客が丸ごとひとつになる「酒販立ち飲み一体型」が、大阪立ち飲みパワーの源泉となっています。
「温酒部」で「手印」に酔いしれる
今回は「酒販立ち飲み一体型」の三好屋商店(大阪市西区)を訪ねてみました。1931年の創業で、現在は3代目の吾妻康史さんと、妹の金森環さんのふたりで切り盛りしています。同店の歩みを振り返ると、大阪の立ち飲みの歴史が浮かび上がってきます。 キーワードは「温酒部(おんしゅぶ)」と「手印(てじるし)」です。 「創業当初から店内に温酒部を設け、お酒を燗(かん)付け器で温め、立ち飲みで提供していました。有名蔵元の酒は入手しづらかったため、気の合う蔵元に頼んで、『手印』と呼ばれるオリジナルブランドの酒を造ってもらって販売していました。『手印』は一升瓶40本分に相当する4斗樽で入荷します。小売りは1合、2合と量り売りしていましたので、立ち飲みにも向いていました」(吾妻さん) 酒がぜいたく品の時代。1日の仕事の疲れをいやす男たちが、なめるように味わう情景がよみがえってきます。