全米で錦織以外にもう一人いた日本人ベスト4 綿貫陽介の可能性とは?
錦織圭がベスト4に進出した全米オープンで、もう一人、準決勝まで勝ち進んだ日本人がいた。 綿貫陽介、18歳。18歳以下によって競われる“ジュニア部門”での快挙であった。 そのように言ったそばから矛盾するようだが、今年でジュニアを卒業する綿貫本人は、この結果を決して快挙とは捕らえてない。今年3月時点では、ジュニアランキング2位を記録。「ジュニアグランドスラムのタイトルを1つは取りたい」と公言していた彼にとっては、不完全燃焼感の残る最後のジュニアグランドスラムだったようだ。 181cmの日本人としては恵まれた体躯から繰り出されるサーブと、綺麗なフォームで放たれるストローク――端正なテニスは、彼の生い立ちを思えば納得できるものである。両親はテニスアカデミーの経営者で、兄2人ともにプロテニスプレーヤー。物心がついた時には、ラケットを手にして兄や両親と一緒にボールを追っている……それが彼の、テニスとの出会いであった。 躍進の時は、プロに転向した今季から訪れる。1月の全豪オープンジュニアで、並み居る強豪を炎天下の熱闘の末に破りベスト8に進出。その後はプロの一般大会にも出場し、“フューチャーズ”と呼ばれるツアーの下部大会で2大会連続優勝。大人の世界でも戦えることを証明し、600位台の世界ランキングも手にしている。それも、勝ち上がる行程で400位台の選手たちを立て続けに破っているのだから、現時点でも既に数字以上の力は十分に持っているだろう。 ボールをクリーンに打ちぬく能力は識者の間でも定評が高く、まだ線の細い身体を今後鍛え上げていけば、世界相手とも伍して打ち合えるはずだ。綿貫の高い潜在能力は世界の指導者たちの目も引くようで、そのことはセリーナ・ウィリアムズのコーチであり、フランスでアカデミーを経営するパトリック・ムラトグルーらが、綿貫の試合コートに幾度も足を運んでいたことからも見てとれた。 ただ綿貫本人は、世界で結果を残しながらも、自らの内に大きな葛藤を抱えている。 「本当は、サーブとフォアで攻めるテニスがしたい」 それが、彼の理想だ。幼少期から、テニスコーチの両親の薫陶を受けてきたエリートである。美しいテニス への志向は、誰よりも強い。だが昨年は、試合中にも求めるテニスが出来ないと苛立ちを覚え、内から崩れることが多かった。ゆえに、結果もついてこない。 「凄く苦しい時期で、家族全員とも何度も話し合って……」 その末に到ったのが、「目先の勝利に拘らなくて、果たして先があるのか?」という命題。美しいテニスではなくとも、例え泥臭くても勝負に徹する――そう決めた時から、結果も着実に出始める。今回の全米ジュニアでも、ミスの少ない堅実なテニスでベスト4まで勝ち上がった。 それでも綿貫は、まだあどけさの残る端正な顔に、深い迷いの色を浮かべる。