『おむすび』は“軽い”朝ドラではない 物語の根底にある誰にでも起こりうる悲劇
話を戻そう。翔也である。何もかもうまくいきそうと思ったら、肩が故障し、野球ができなくなりそうなオオゴトに。涙ながらに結にその事実を伝え、結婚が近づいていると浮かれていた結に冷水を浴びせるのだ。 人生に何度もないイベントであるプロポーズに浮かれている、ひじょうに素朴な結と、突然、夢を打ち砕かれた翔也の激しい落差。コミカルな描写を入れて緩和されているとはいえ翔也の置かれた状況はかなりヘヴィであるし、結がコミカルに振る舞えば振る舞うほど、残酷にも見える。 球場で涙ながらに語る翔也の表情はこれまでにないシリアスなものだった。野球のことしか考えていなかった翔也から野球をとったらどうなってしまうのか。考えるだけで耐えられない。 『おむすび』はひじょうにライトな作りに見えて、阪神・淡路大震災からはじまって、思いがけない厄災に見舞われた人たちを描き出す。それは決して他人ごとではない。思いがけない厄災にある日突然見舞われることが誰しもに実際にあるのだ。リーマンショックだってそのひとつだ。戦争だって。そんなときどうしたらいいのか、『おむすび』はヒントをくれるだろうか。
木俣冬