まずは現場を知ること、人事部門出身の社長が続くダイキン
ダイキンの新社長人事。 【もっと写真を見る】
今回のひとこと 「現場を知り、意見を聞き、その上で議論し、意思決定をする。高い目標とテーマを設定し、実行することが、業績目標の達成につながる。まずは、2024年度の業績を達成することが第一義である」 ダイキン工業の代表取締役社長兼COOに、竹中直文専務執行役員が、2024年6月27日付けで就任する。同社は、2024年に創業100年の節目を迎える。その節目に社長交代を含めた経営体制の刷新を図ることになる。 30年に渡って経営の舵取りを行い、人を基軸とした経営や、FUSIONによる経営戦略モデルを定着させ、中興の祖と言われる井上礼之取締役会長が名誉会長に就き、その地盤をより強固なものにし、過去最高業績を更新し続けてきた十河政則社長が、代表取締役会長兼CEOに就任する。そのなかでの新社長登板となる。 2024年4月に、十河社長に社長室に呼ばれた竹中氏は、社長就任の打診を受け、「青天の霹靂というのは、まさにこういうことなのかと思った」と笑う。 「私がたじろいでいると、間髪言わさずに、『立場が人を育てる。これまでの経験を強みにし、厳しく、衝突を恐れず、挑戦に次ぐ挑戦、改革に次ぐ改革に邁進せよ』という言葉をもらった。自問自答し、覚悟を決めた」と、そのときの様子を振り返る。 「100周年の節目の年を、最高業績で迎えられることをうれしく思う反面、その節目に社長に就任する責任の重さに身が引き締まる思いである」とし、「これまでの経営陣が築き上げてきた強みは、先見性がある経営判断と実行力である。また、独自性の追求やFUSION経営の推進、人を基軸に置く経営も、ダイキン工業の強みである。これらをしっかりと継承する。その上で、現場の第一線に入り込み、実行のスピードと成果の創出を加速することに全力を尽くす」と抱負を述べる。 技術者として入社、人事や総務を経て現職 「自分の力で新しいものを生み出したいという思いがあった」という竹中次期社長は、1986年4月に、技術者として、ダイキン工業に入社した。 その後、空調生産本部企画部長兼企画部原価企画担当部長などを経て、2009年5月には、23年勤務した工場から離れ、空調営業本部事業戦略室長に就任し、国内空調事業の立て直しに取り組んだ。「惨憺たる状況だった」という当時の国内空調事業の機構改革や、体質改善に挑んだ結果、V字回復を果たし、その後の持続的な事業成長につなげた。 「このときに、価格に対する大切さ、戦略的価格政策の重要性を身に染みて経験した。また、一人ひとりを動かす難しさや現場主義の大切さ、リーディングカンパニーとして、なにをすべきか、といったことも学んだ」とする。 2012年 6 月に専任役員SCM担当。2017年6月に常務専任役員に就任。2020年6月には人事、総務担当に就き、2021年6月に専務執行役員に就いた。 実は、井上会長、十河社長も、人事部門の出身である。 竹中次期社長は、「4年前に人事部門に異動してから、毎日、2人から指導を受けてきた。人事部門では、いい思い出はまったくない」とジョークを飛ばす。しかし、ここで社長としての経営術を叩き込まれたともいえる。 十河社長も、竹中次期社長を、人事部門に異動させたのは、将来の社長登用への布石だったことを明かす。 十河社長は、「人事の仕事は極めて難しい。経営トップには、前面の理、側面の情、背面の恐怖を、バランスよく使い分ける必要があり、その能力があるかを見た。この4年間で、人を見る力があり、人の力を引き出すことができると感じた。これは、人が好きでないとできないことであり、人と交わり、交流することが好きな人物であることがわかった」と、竹中次期社長の人柄を捉える。 ダイキン工業が掲げる「人を基軸とした経営」を実現するには、人は、なにかを理解しなくてはならないと十河社長は語る。人事部門の経験は、ダイキン工業の経営トップとして、不可欠な経験だといえる。 万博では空気と水をテーマに 十河社長は、竹中次期社長を選んだ理由を3つあげる。 ひとつめは、ダイキン工業の理念や、人を基軸とした考え方を理解し、ダイキン独自の強みを継承していける人物であることだ。「誠実であり、人の話をしっかりと聞き、自らの行動に生かしていける人物」と評する。 2つめは、生産や開発、営業、SCMなど、様々な事業に関わってきた豊富な経験だ。「新たな挑戦を、着実に事業現場に落とし込み、実行し、強化に結びつけるというCOOの役割には適任である」とみる。 そして、3点目は、人事部門での経験を通じて、コーポレートマネジメントに従事。さらに、2025年の大阪・関西万博事務局での活動を通じて財界との人脈づくりを進めてきた実績をあげる。「経営幹部としての力量においても、確かであると評価した」と語る。 ちなみに、大阪・関西万博では、ダイキン工業は、サントリーホールディングスとともに共同で協賛。大阪で創業し、グローバルカンパニーとなった2社が、それぞれが得意とする「空気」と「水」をテーマにした内容を展示する。 2022年10月に行われた会見では、竹中次期社長が出席し、「ダイキンならではの技術で、世界中がワクワクする未来を表現したい。万博に来場する世界中の人に、空気と水のすばらしさや可能性を感じてもらい、大切な資源について考え、行動を起こすきっかけにしたい」と述べていた。 このときのコメントからも、竹中次期社長が、行動につなげることを重視する人物であることが伺われる。 COO職を復活 今回の経営体制の刷新において、ダイキン工業ではCOOの役職を復活させ、竹中次期社長が、その役割を担うことになる。 十河社長は、「先々の見通しが不透明で、変化が激しい時代においては、新たな経営課題を着実に事業現場に落とし込み、実行のスピードを一段と加速させる業務執行責任の役割が必要だと考えた。これからの企業経営においては、現場の第一線に入り込んで、経営と現場をしっかりと一体化させ、挑戦力と実行力を高めることが重要である」と、COOを復活させ理由を語る。 竹中次期社長も、「現場に対する思いを大切にする力は人一倍であると自負している。また、壁を作るのが大嫌いである。様々な仕事を経験したことで、全体最適で物事を捉え、そこに向けて最善を尽くすことができる。社員の力を引き出すことを大切にしたい」と語り、長年の現場で経験が、COOとしての職務に生きることを強調してみせた。 高い目標を目指す 「まずは、2024年度の業績を達成することが第一義である」と目標を定める。社長交代の発表と同じ日に発表した2024年度の業績見通しは、売上高が前年比3.3%増の4兆5400億円、営業利益は8.4%増の4250億円、経常利益は10.0%増の3900億円、当期純利益は2.6%増の2670億円と、過去最高業績の更新が目標。社長就任初年度から高いハードルに挑むことになる。 「COOとして、現場を知り、意見を聞き、その上で議論し、意思決定をする。高い目標とテーマを設定し、実行することが、業績目標の達成につながる」と、ダイキンが得意とする、経営陣と現場の距離が近い体制を生かしながら、業績向上を目指す。 さらに竹中次期社長は、「既存事業の収益力を高めること、環境課題解決を進めることが重要である。また、既存のビシネスモデルだけでは大きな成長は見込めないという危機意識もある。価値の高いソリューション事業や、デバイスの回収および再生に代表される循環型ビジネス、サーキュラエコノミーなど、いまの時代に求められる事業を経営の柱にしなくてはならないと考えている」と語り、「変化を先読みして、新たなことにトライし、実行しながら変化する。外部との共創も強化し、新しい技術、新しい商品、新しいシステム、新しいビジネスへの進化にも取り組みたい」と述べている。 「素直な心を持って、人の意見を聞くことを心がけている」とする竹中次期社長は、「グローバル9万8000人の従業員一人ひとりが、誇りとやりがいを持って、挑戦し、成長できる会社を目指したい」と語る。 現場を熟知する竹中次期社長が、ダイキン工業の成長戦略を、さらに強くドライブさせることになる。 文● 大河原克行 編集●ASCII