<16カードここに注目 センバツ交流試合>東北・中国王者対決 打力に勝る仙台育英 接戦で勝負強い倉敷商 第4日第3試合
2020年甲子園高校野球交流試合(日本高校野球連盟主催、毎日新聞社、朝日新聞社後援、阪神甲子園球場特別協力)が8月10日から、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で行われる。15日の第3試合で対戦する仙台育英(宮城)と倉敷商(岡山)の見どころや両チームの戦力、学校紹介、応援メッセージを紹介する。※全国大会出場回数は今春のセンバツを含む。 【三塁上でガッツポーズ】中国大会決勝で延長勝ち越し打 倉敷商。原田 ◇継投に自信の両校 必勝リレーの軍配はどちらに 2019年秋の東北大会と中国大会を制した実力校同士の一戦は、大舞台での経験値や打力では仙台育英に分がある。倉敷商は先手を取って勝ちパターンの継投に持ち込めれば、接戦での勝負強さが生きてくる。 仙台育英は、昨秋の公式戦のチーム打率が3割8分1厘と攻撃力に秀でている。4番の入江大樹はパンチ力があり、内角球をさばくのがうまい。ただし、須江航監督は「簡単に点数を取れる相手ではない」と相手の投手力を警戒している。 倉敷商の投手陣でポイントになるのは、先発を担う右腕・福家悠太のチェンジアップだろう。打者のタイミングを巧みにずらして打たせて取る投球に徹すれば、仙台育英打線の焦りを誘うこともできる。直球とスライダーに切れのある左腕・永野司への継投のタイミングも重要になる。 仙台育英も継投で勝ち上がってきた。制球力のある向坂優太郎と、直球に威力のある笹倉世凪の両左腕を軸に顔ぶれは多彩。倉敷商は原田将多を中心に少ない好機を生かせるか。梶山和洋監督は「力はうちより(仙台育英が)数倍上」と控えめだが、昨秋の公式戦のように思い切った攻めを仕掛ける可能性もある。【森野俊】 ◇昨夏8強メンバー7人 スローガンは「熱夏伝承」 2019年夏の甲子園8強のメンバーが7人残り、秋の東北大会では強打を前面に出して打ち勝った。東北王者に輝いたチームのスローガンは「熱夏伝承」。センバツ交流試合で3年生が集大成となる活躍を見せることで、培ってきた伝統を下級生に伝え、ファンにも感謝の思いを示したいという。 東北大会4試合で計35得点を奪った打線は上位、下位とも切れ目がない。4番の入江大樹(3年)や宮本拓実(3年)は長打力があり、主将の田中祥都(3年)は今夏から1番を担い、出塁率が高い。19年秋の公式戦でチームトップの18打点を挙げた笹倉世凪(せな、2年)は状況に応じた柔軟性のある打撃が持ち味だ。 投手陣はハイレベルな複数の投手による継投で勝負する。エースの左腕・向坂優太郎(3年)は最速140キロ超の直球やスライダーに切れがある。昨夏の甲子園で登板した左腕の笹倉、冬場に急成長した阿部恋(3年)、伊藤樹(2年)の両右腕にも期待が懸かる。 新型コロナウイルスの感染が拡大した4月から約2カ月間、全体練習を中止した。自粛期間中はウェブ会議システムでミーティングし、野球のことだけでなくコロナ禍の社会情勢についても話し合ったという。須江航監督は5月末に全体練習を再開した当時を振り返り、「プレーの質はもちろん、精神的にも強くなって帰ってきた」と話す。 過去に甲子園で準優勝3回。悲願の全国制覇を目指す舞台ではないが、同じ甲子園で試合ができることへの感謝を胸に、選手たちの気力は充実している。田中は「自分たちが甲子園で『日本一になれたチーム』だということを見せつけたい」と意気込みを語った。【滝沢一誠】 ◇仙台育英・田中祥都主将の話 (倉敷商は)打力があり、組織力で勝つチーム。3年間の集大成として甲子園で1勝できるよう仕上がっている。(新型コロナウイルスの影響で)苦しんだ方々に希望を与えられるプレーをしたい。 ◇春夏通算で準V3度 駅伝、サッカーも全国レベル 1905年創立。全日制だけで生徒数3000人超の大規模校。野球部は30年創部。甲子園では89年夏、2001年春、15年夏に準優勝した。他の部活動も盛んで、昨年の全国高校駅伝では男女同時優勝を果たした。サッカーやラグビーなども全国レベル。校舎の所在地は仙台市と宮城県多賀城市。 ◇「練習してきた『過程』代えられない」プロ野球・楽天投手の由規さん 高校1年生の時は自分が甲子園に出場するなんて想像もつかなかったです。でも、その甲子園で同学年の選手が活躍しているのを見て、本気で甲子園を目指して練習しました。エースとしてマウンドに立てた時は夢がかなったと思いました。 今の母校は本塁打も小技も繰り出せる「打」のチームという印象です。もし自分が対戦するとしたら、強力打線をどこまで抑えられるか考えますね。 春夏の大会の中止は、3年生の気持ちを思うと自分のことのように残念でした。それでも、3年間みんなで練習してきた「過程」は何にも代えられないものです。交流試合は甲子園で試合できるチャンス。悔いの残らないよう、楽しんでプレーしてほしいです。 ◇「攻撃的2番」が打線けん引の倉敷商 強攻策で活路 昨年夏は岡山大会決勝で敗れ、あと一歩で甲子園出場を逃した。秋季中国大会で初優勝し、8年ぶりに切符を手にした今春のセンバツは新型コロナウイルスの感染拡大で中止。「夏こそは」と闘志を燃やした選手権大会もなくなり、主将の原田将多(3年)は「甲子園は幻のような存在」と落胆の色を隠せなかったという。 それでも原田はその後、3年生の全部員に電話し、「どんな形でも最後までやり切ろう」と呼び掛けた。休校期間が明けた6月、久しぶりにグラウンドに集まった選手たちは生き生きとした表情で、プレーできる幸せをかみしめていた。 昨年8月に梶山和洋監督が就任。犠打を絡めた手堅い攻撃を伝統としてきたが、昨秋は強攻策を多用した。公式戦のチーム本塁打数は5本。中国大会では準々決勝から3試合連続で2桁安打を放ち、延長戦を2度制するなど勝負強さも発揮して頂点に立った。 力強さを増した打線の象徴は「攻撃的2番」の原田。チームトップの打率4割4分7厘、18打点をマークした。さらに、4番・福島大輝(3年)、7番・浅野大器(3年)の長打力も光る。投手陣は、多彩な変化球が持ち味で、休校期間中の自主練習で球速が増した右腕の福家悠太(3年)、切れ味鋭いスライダーが武器の左腕・永野司(2年)の継投が必勝パターンだ。 交流試合開催が決まり、原田は「本当にうれしく、甲子園に自分が立っているイメージが湧いた」と笑顔を見せ、「1試合はあっという間に終わる。濃い時間を過ごしたい」と力を込めた。相手は甲子園常連の強豪だが、梶山監督は「必ず隙(すき)があるはず。選手たちの120%の力を引き出したい」。【松室花実】 ◇倉敷商・原田将多主将の話 (仙台育英は)レベルの高いチーム。(練習再開後は)元気よくできているのでいい状態にある。(甲子園では)全力で、たくさんの方に感謝しながらプレーしたい。 ◇OBに星野仙一さん、松岡弘さんら 1912年創立で、野球部は31年創部。センバツは85年に初出場した。甲子園での最高成績は89年夏と2012年夏の8強。OBに星野仙一さん(元楽天監督、故人)、松岡弘さん(元ヤクルト)、岡大海選手(ロッテ)ら。ウエートリフティング部や吹奏楽部も盛ん。岡山県倉敷市。 ◇「全国の『同窓生』喜ばせて」倉敷商野球部OB会長・長谷川登さん 私が高校球児の時は残念ながら甲子園出場は果たせず、のちに指導者として甲子園の土を踏ませていただきました。初めて甲子園のグラウンドに足を踏み入れた瞬間の感動と、足の裏から伝わる土の感触を今も忘れることができません。 今年の倉敷商の後輩たちは、感動とともに私たちが想像もできないようなさまざまな思いを持って甲子園の土を踏みしめるに違いありません。野球の神様からの「交流試合」という貴重なプレゼントに感謝しつつ、憧れの舞台で思い切りプレーし、思い切り楽しんでほしい。そして、東北の雄である仙台育英に対して堂々と「倉商野球」を展開し、地元のみならず全国の同窓生を喜ばせてほしい。応援しています。