「妊婦さんってこんなに大変なの?」ピジョンが中学生に「赤ちゃんを知る授業」を展開する理由
中学生が“今日からできる”育児協力って?
授業の最後には「街で困っている妊婦さんや乳幼児連れの家族に遭遇したら……」をテーマに、グループディスカッションが行われた。 「妊婦さんを電車やコンビニで見かけたとき」「ベビーカーを押している人が階段の前で困っているとき」「ベビーカーを押している人がエレベーターの前で困っているとき」「公共機関や飲食店で赤ちゃんが泣いているとき」の4つのシチュエーションで、どんな手助けができるかを議論した。 「困っていそうだったら声をかける」「見守る」など、積極的に意見する生徒の姿が印象的だった。 「ベビーカーを押している人がエレベーターの前で困っているとき」をテーマに議論した班は「エレベーターに先に乗ってもらい、(降りるときに)“開ボタン”を押します」と提案。他の班からも思いやりのある発表があった。
「自信を持って赤ちゃんと接することができそう」
約50分の「赤ちゃんを知る授業」を終えて、生徒たちの意識にはどんな変化があったのだろうか。 「図書館のボランティアで小さい赤ちゃんと触れ合う機会があります。 どうしていいか分からなかったけれど、何かできることはありますか?と声をかけるだけでもママさんの助けになると知りました。 これからは自信を持って赤ちゃんと接することができそうです」(女子生徒) この授業は家庭科の一環で行われた。先生は生徒の様子をどのように受け止めたのか。 「生徒たちは親御さんや教師など近しい人から教えられるより、第三者から得た知識で理解が深まることも多いんです。 授業で学んだ“協力することの大切さ”は、今日から街で生かせる知識です。立場の違う人の状況を疑似体験したり学ぶことで、社会を見る目が変わるのではないでしょうか」(かえつ有明中学校・家庭科教諭 吉井小鈴先生)
なぜ、ピジョンは「育児の早期教育」に取り組むのか
2021年9月からピジョンが行ってきた「赤ちゃんを知る授業」。 配布教材を活用した授業は全国の約400校で自主的に行われ、約3万2千人の生徒に提供されたという(2024年10月現在)。また、ピジョンの社員が実際に中学校に出向く出張授業は首都圏で実施され、現在までに10校で行われている。 ピジョンはなぜ、このような取り組みを始めたのか。 「当社は存在意義として、『赤ちゃんをいつも真に見つめ続け、この世界をもっと赤ちゃんにやさしい場所にします』を掲げています。 赤ちゃんが尊ばれ、社会全体で協力して子育てができる未来のために、ピジョンには何ができるのか? と社内で課題を出し合いました。できることの第一歩として、赤ちゃんを知る授業がスタートしたのです」 (ピジョン 経営戦略本部 ブランドデザイン部 コーポレートブランディンググループ マネージャー 小野有紀さん) 授業内で体験学習を多く盛り込んだのは、現在の社会背景に起因するとも話す。 「日本では出産育児を取り巻く環境は厳しく、『周囲から育児に対して理解を得られていない』と悩む親御さんが多いようです。 一方、少子化・核家族化でふだんの生活で赤ちゃんと触れ合う機会がない人も多くいます。 赤ちゃんに関心を持てなければ、理解することも難しい。まずは、体験を通じて生徒たちに赤ちゃんのことを身近に感じてほしいという思いがあります」(小野さん) ピジョンが行った調査では、赤ちゃんと出かける際に不便や苦労を感じた人は85%、周囲からの親切な声掛けなどの配慮が嬉しかったと答えた人は64%という結果となっている。 育児の早期教育の対象を中学生に定めた理由については、こう語る。 「中学生時期になると、自分もしくは周りの人を通じて、社会全体で子育てを支えていく大切さに気づくことができます。 また、視野が広がり、社会に対するやさしい行動も自分の判断でできるようになってくる。そういう時期にこそ、育児環境や赤ちゃんのことをもっと知ってもらいたいなと思いました」(小野さん) また、この取り組みは、授業を受けた中学生だけでなくピジョン社員にも良い変化をもたらしているという。 「出張授業の参加者は社内から広く募っていますが、毎回さまざまな部署の人からの参加希望があります。 授業を通じて学生と触れ合い、『妊婦さんや赤ちゃんとの接し方が分かった』『両親に感謝したい』といった声を直接聞くことは、自分たちの事業の意義の再確認にも繋がっているようです」(小野さん) みんなで育児を考え、支え合う社会へ。やさしい世界への取り組みの輪は広がっている。 (文:石上直美、編集:中島日和[Business Insider Japan Brand Studio])
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