シリア難民をどうするか…アサド政権崩壊後のいま「ドイツで起きていること」
ドイツの極左がシリア難民に「厳しい」理由
興味深かったのは、やはり新興の党で、極左といわれているBSW(サラ・ヴァーゲンクネヒト同盟)が、意外にも、シリア難民に対していちばん厳しかったこと。党首のサラ・ヴァーゲンクネヒト氏は才色兼備で超人気の政治家だが、彼女の主張は、「ドイツ国内で、シリアのイスラム主義者の政権奪取を祝った人たちは、即刻ドイツを去れ」というもの。なぜか? 現在、シリアで暫定政権を立てたHTS(タハリール・アルシャーム機構)は、米、英、EUからイスラム過激派のテロ組織に認定されている。ドイツ政府もメディアも何も言わないが、彼らが西側の基準でいう民主主義者でないことは周知の事実だ。そんな組織を“解放軍”として信奉する人たちを、ドイツが匿う理由は確かにない。それどころか、危険極まりないと言える。 要するに現在のドイツでは、皮肉にも、極右と極左として排除されているAfDとBSWが一番まともなことを言っている。 難民問題にはあまりにも矛盾が多い。難民庇護というといかにも人道的に聞こえるが、その影には、ほとんど植民地主義かと思われるような不合理で非人道的な問題が見え隠れする。
空洞化しているシリアの知識層
かつてイスラム文化の中心として栄えたシリアだが、13年にもわたった内乱が終わった今、インテリ層はほとんど残っていない。かつてナチの台頭し始めたドイツでは、正確な情報を入手できたユダヤ人や、富裕なユダヤ人だけが、本格的な弾圧前、真っ先に国外に脱出したが、今のシリアでも知識層が空洞化している。 彼らの頭脳とお金が戻ってこない限り、シリアの復興も民主化もあり得ない。これはAfDの言う通りだ。しかし、ドイツも、そしてその他の国もそれは無視して、おそらくシリアの復興のためには、誰がいくらお金を出すかということに議論を絞るだろう。 そして、そのお金を目指して、やはり欧米やら中国の企業が進出し、出したお金を取り戻す。難民問題の解消や復興支援というお題目は、新しい植民地主義の萌芽かもしれない。 1月3日、ベアボック独外相は、バロ仏外相とともにEUの名の下にシリアの首都ダマスカスを訪れ、HTSの幹部らと会見した。すでにシリアの利権争いが始まっているのだ。 では、日本は? 私たちは難民問題とは無縁なのだろうか? そして、また、誰かに言われるがままにお金だけ出して、「人道のため」と言っていれば済むのだろうか? なお、ベアボック氏は、シリアでもいつも通り、「支援が欲しければ女性の人権を守れ」と上から目線だったが、HTSの幹部らは、バロ外相とは握手したが、ベアボック氏との握手は無視。 これは女性に対する敬意なのか、軽蔑なのか、私にはわからないが、シリアの政治家がEUの手に負えるかどうかは、ドイツ内の70万人のシリア難民の動向と同じく、極めて不透明である。 【さらに読む】日本も他人事ではいられない…自動車産業が傾いたドイツで「いま起きている」悲惨な現実
川口 マーン 惠美(作家)