シリア難民をどうするか…アサド政権崩壊後のいま「ドイツで起きていること」
政策自体の良し悪しより優先されているもの
国民の気持ちが難民受け入れから離れていることを十分に察しているCDU(キリスト教民主同盟)は、これまでの優柔不断な方針を翻し、「シリアが独裁国家でなくなった今、難民には帰国を促す」と言い始めた。ちなみにこれまで優柔不断であった理由は、難民に厳しい態度をとって、「AfDと同じじゃないか」と言われることを恐れていたからだ。 今やドイツの政治家は、AfDを排除しようとするあまり、政策自体の良し悪しではなく、AfDが何を言っているかに振り回されている。しかし、今回、CDUはようやく、少なくとも難民問題に関しては、最初のハードルを越えようとしているわけだ。 ただ、同時にCDUは、自発的な帰国者には一人1000ユーロをプレゼントしようと言い出したため、多くの国民が呆気に取られた。これもひょっとすると、AfDと違って自分たちは難民に対する親切心は失っていないというスタンスかもしれない。とはいえ1000ユーロは、シリアでは平均年収を超える額だという。 一方、社民党と緑の党の主張はまるで違う。多くのシリア人はすっかりドイツに馴染んでおり、そんな彼らを、情勢も不明瞭、今後の統治の全容も確定していないような国に帰すなど“以ての外”というのが、彼らの主張だ。特に、ドイツにとって有益な職業に就いてくれているシリア人の滞在許可は取り消すべきではないという。本音は全員に永住権を与えたいのだろう。 そして、その途端、公共メディアも示し合わせたように、「シリア人を追い出せば、ドイツの病院は機能しなくなる」と警告を発し始めた。確かに、ドイツには現在、6000~7000人のシリア人医師がおり、その他、大勢の技師や介護士なども、ドイツの人手不足解消に貢献してくれている。
「本当の復興」のために必要なこと
さらにニュースには、大病院で働く有能そうな医師や、子供を育てながら安定した生活を送っている若い夫婦や、勉学や研究に励む学生など、ヤル気満々で活躍しているエリートシリア人が登場。皆、感じがよく、ゆっくりだが間違いのないドイツ語を話し、見た者が皆、「え? この人たちがあのシリアに戻らなければならないの? 可哀想…」と思ってしまうような映像だ(私は、この感情はシリアに対する一種の差別だと思うが)。 ちなみにドイツの公共放送が、公共の電波と国民の視聴料を使って、社民党と緑の党の応援団を務めるのは日常茶飯事だ。 なお、国民はというと、CDUと社民党の中間のような意見で、役に立つ人には残ってもらいたいが、犯罪者や、社会のお荷物になっている人には帰ってもらいたいといったところだ。ちょっと虫が良すぎる。 では、日頃、差別主義や反移民のレッテルを貼られているAfDは、何と言っているか? 彼らは人々が期待しているような過激なことは言わず、「母国の情勢が落ち着いたら、難民として庇護されていた人は、当然、帰国するべき」とのこと。ただ、CDUとは違い、その際、ドイツにとって有益なシリア人だけを留めることには反対している。 優秀な頭脳と労働力を必要としているのはシリアも同じであり、それを奪ってしまっては、シリアの復興は叶わないというのがAfDの主張だ。こちらの方がCDUよりもずっと真っ当だと思うのは、私だけだろうか。