アマゾン、中国系対抗の格安ECに関税課される恐れ
米アマゾン・ドット・コムはこのほど、格安オンラインストアを米国の電子商取引(EC)サイト内に開設した。中国などの国外の物流施設から米国の消費者に直接、商品を発送できる仕組みを構築した。米国で急速に人気を集める2つの中国系新興ECサービスに対抗する。 ■ 商品の大半10ドル以下の格安EC モバイルアプリとモバイルサイト内に価格が20ドル(約3000円)以下の商品に特化した、「Amazon Haul(アマゾン・ホール)」と呼ぶセクションを設けた。「Haul」は「大量購入、お買い得品」を指す言葉としてよく使われる。 1.99ドルのスマホケースや4.99ドルのウエストポーチなど、扱う商品の大半は10ドル以下である。送料は3.99ドルだが、1回の購入金額が25ドル以上であれば無料になる。加えて、50ドル以上の購入で5%、75ドル以上の購入で10%を割り引く。1回の購入量を増やす狙いだ。 ■ アマゾンモデルと異なる、消費者への直送方式 アマゾンの従来モデルとの決定的な違いは、商品を注文してから届くまでに1~2週間と、時間がかかる点だ。アマゾンは、競合他社よりも迅速に商品を届けることで、EC市場で支配力を高めてきた。それを実現するために顧客に最も近い場所に在庫を配置している。販売業者には「フルフィルメント・バイ・アマゾン(FBA)」と呼ぶ物流サービスの利用を促している。これにより年40億個以上の商品を注文の当日または翌日に配達している。 これに対し、勢力を強める2つの中国系新興ECサービスは、米国の倉庫に在庫を置かず、注文が入る都度、中国から輸入して消費者に直送する。配達までの時間は延びるが、それを格安価格で補っている。
中国系新興ECサービスとは、ネット通販「拼多多(ピンドゥオドゥオ)」を展開するPDDホールディングスが手がける越境EC「Temu(テム)」と、アパレル越境ECを手がける「SHEIN(シーイン)」である。 Temuは2022年秋に米国でサービスを始めた。米調査会社のセンサータワーによると、Temuは若年層を中心に利用者が増え、月間アクティブユーザー数が24年1月に5140万人へと増加した。SHEINの月間アクティブユーザー数は同じ期間に、2090万人から2600万人へと増えた。 こうした中、米メディアは24年夏ごろから、アマゾンがTemuやSHEINのような格安商品に特化したオンライン・ストアフロントの立ち上げを計画していると報じていた。 ■ TemuとSHEINが活用の関税免除措置を見直し アマゾンはAmazon HaulでTemuとSHEINの2社に対抗していくことになる。しかし、今後、中国からの輸入は高コストになる可能性がある。 バイデン米政権は24年9月、小口貨物向けの関税免除措置(デミニミス・ルール、De minimis rule)を見直すと明らかにした。米国には800ドル(約12万円)以下の小口貨物には関税が課されず、税関検査なしで輸入できるという特例制度がある。TemuとSHEINはこの措置を活用して、関税や手続きにかかるコストを回避している。 米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によれば、アマゾンの一部の出品者もこの特例措置を利用している。 今後、これらECプラットフォームで販売される商品の一部に関税が課される可能性がある。トランプ次期米大統領は、輸入品に対する関税引き上げを公約に掲げており、中国からの製品に一律60%の関税を課すとしている。欧州連合(EU)の欧州委員会もTemuやSHEINなどの中国発ECを通じて購入した商品に関税をかけることを検討している。 TemuとSHEINのビジネスモデルが成り立たなくなる可能性が出てきた。そうなればアマゾンが立ち上げた格安ECの事業モデルにも影響が及ぶことになる。
小久保 重信