世界ヒットする松本人志「ドキュメンタル」の狙い 吉本・岡本社長がカンヌで示した“迷いなき決断”
世界に広がる新しいバラエティ番組そのものが数年に1本の割合でしか生まれていませんから、決して大袈裟ではありません。一方、日本ではシーズン13が配信された直後の2024年1月に松本人志の芸能活動休止が発表されて以降、更新されないままのなか皮肉とも言えます。それでも、海外展開そのものは以前から積み重ねてきたからこそ社を挙げて打ち出すことになったわけですが、このタイミングに懸念はなかったのかと思うところもあります。
岡本社長に直球で聞くと「何の疑いもなかった」と言い切り、さらに想いを言葉に乗せます。 「松本人志本人の事情はありますが、作品そのものは彼が築き上げ、彼の才能が反映されたもの。それがこうして海外でも愛され、楽しんでいただけていることが純粋に嬉しく、ありがたいことだと思っています」 ■テレビ局は複雑な気持ち? ! もしかしたら、この状況に最も複雑な想いを感じているのは日本のテレビ局なのかもしれません。これまで海外にバラエティ番組を売り込む日本の企業はテレビ局が中心。番組の海外販売の権利を持つ立場は限られています。参入企業形態のバリエーションがある海外とは違います。
つまり、プレイヤーが増えることで日本のコンテンツに目が向けられ、日本コンテンツ全体の活性化につながるかもしれないと頭では理解しても、ライバルが増えて食い合う現実的なデメリットは拭えません。 ましてや「ドキュメンタル」の場合はテレビ局の企画が元ネタです。「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!」(日本テレビ系)の罰ゲーム企画「笑ってはいけない」が優勝賞金を懸けた勝ち抜きスタイルにアレンジされています。松本人志が番組内で「“笑ってはいけない”がプロレスだとしたら、“ドキュメンタル”は総合格闘技」と例えていることからも派生形であることは明らかです。
経緯としては岡本社長曰く、「Amazonゆえに、世界で通用する企画を考えてもらうよう松本人志にお願いし、“Amazonとバラエティをやるんだったら松本で”と初めから決めていた」そうです。吉本興業としては松本人志に全幅の信頼を寄せていたのです。 また戦略的な部分も見えます。NetflixやAmazonが日本市場に参入した約10年前の当日、「黒船」に例えられるほど多くのテレビ局や制作会社は慎重な動きを見せていましたが、ぐいぐいと攻めていたのが吉本興業でした。岡本社長の言葉からも裏付けられます。