教科学習の時間を1割減、「探究学習」倍増させた渋谷区の今 公立小中学校で午後を「総合的な学習の時間」に
どんな探究プログラムを行っているのか?
渋谷区では、今回の大幅な改革以前に2020年度から新学習指導要領の施行にあわせて、総合的な学習の時間のうち20時間を使って「シブヤ未来科」という課題解決型学習に取り組んできました。 渋谷で活躍する大人など地域のリソースを生かして、地域課題に取り組むもので、子どもたちに、地元渋谷を愛し、将来渋谷を作っていく人になる“シブヤシティプライド”を育てたいという思いが込められています。 今回、それを拡大する形で、年間を通した探究プログラムが行われるようになったのですが、探究学習の1年の流れは、以下の通り。 前期に、学年ごとのテーマに沿ってグループで行うテーマ探究が行われ、そのテーマに関連した教科探究授業を並行して実施。後期からは個人による「My探究」が加わります。 本町学園中学校では、2024年度からの実施に向けて、2023年に次年度その学年を担当する教員たちが、自分たちがやりたいことをテーマにして、探究の時間の指導案を作成しました。 7年生(中1)の全体テーマは、「SDGsを学ぼう」。探究基礎の時間に、実在する企業(今年は花王)のSDGsの取り組みや、起業に向けた資産運用について学び、テーマ探究で、SDGsの中からとくに興味があるテーマについてグループで探究し、職場体験と結びつけながらSDGsを達成できる会社を考案し、My探究につなげていきます。 SDGsをテーマにしつつ、仕事をするとはどういうことか、ビジネスを通して社会貢献するとはどういうことかを大人たちの声を聞きながら考え、起業家マインドまで育む探究学習です。 取材時は、「Inspire High」というプログラムを使いながら、大人たちが何をやりがいにして仕事をしているのかを学び、そこからキャリアについて探究をしていました。 8年生(中2)の全体テーマは、「自分たちの舞台芸術を作る」というもの。探究基礎で、区長が立ち上げたNPO法人グリーンバードのゴミ拾い活動に参加して、渋谷の街をよりよくするために何ができるかを考え、探究のテーマに関連した教科学習の中で、自分たちが深く追求し、人に伝えたいことを見つけていき、それを舞台芸術で表現するために必要な準備をグループワークで行っていきます。 この学年は2クラスで、舞台芸術と英語の多読の授業が交互に行われています。取材時、舞台芸術の授業では、絵本を音で表現するという取り組みを行っていました。また、英語はAI英会話アプリ「ELSA」を使って、多読の授業が行われていました。 9年生(中3)は、修学旅行の探究やスタートアップ企業との対話を通して、自分のキャリアについて考え、進路選択につなげていきます。また、探究の結果を最終的に卒論にまとめていきます。 修学旅行は京都奈良ですが、一般的な修学旅行とは違い、訪問先は生徒主体で決めるので、京都大学や奈良にある先端技術の研究所、任天堂や地元のスタートアップ企業など多種多様。しかも、事前学習も単なる調べ学習ではありません。 デザイン思考の手法を使って、訪問先の課題を設定して課題解決の提案を行い、現地でフィードバックをもらうのです。取材時は、出発を直前に控え、グループごとに自分たちが作った提案を披露し合って、ブラッシュアップしていました。 今回、従来のシブヤ未来科の取り組みを拡大する形で、年間を通した探究プログラムが行われるようになったのですが、その最終ゴールについて「学び全体を子ども主体にすること。探究の時間だけにとどまらず、教科指導全体を問題解決型にしていきたいと考えている」と松村氏。清野校長も、「従来の総合学習の枠組みの中ではなく、学校教育を根本的に変えていく意気込みで取り組んでいる」と言います。教育改革への本気度を感じました。