「トランプ再来」はゼレンスキーにとって悪夢、「24時間で戦争終結」に動き出せば欧州の安全保障体制にも激震
■ 保護関税 「アメリカ第一主義」を標榜するトランプは、国際社会との関係において、モンロー主義的な動きをする。 モンロー主義とは、第五代大統領ジェームズ・モンローが1823年に議会での年次教書で明らかにした外交の基本方針で、孤立主義を掲げた政策である。主として、ヨーロッパの紛争に干渉しないこと、南北アメリカに対する欧州諸国の干渉や植民地化を望まないことが基軸である。 トランプもアメリカ中心の孤立主義的色彩の濃い政策を展開しようとしている。 大統領在任中には、トランプは、環太平洋経済連携協定(TPP)や地球温暖化防止のパリ協定から離脱したり、米露の中距離核戦力(INF)全廃条約を破棄したりしている。 貿易については、高い保護関税を輸入品に課す。その結果、輸出国側は大きな打撃を受ける。とくに中国からの輸入品には一律60%の関税を、その他の国からのものも10~20%の関税をかけるという。そうなれば、相手国側が報復関税を課して、貿易戦争になってしまう。 安価な中国製EVに対しては、アメリカは既に100%の制裁関税を課しているが、トランプは、メキシコでそれを120%まで引き上げる可能性を示唆している。 輸入される産品や製品の価格が上昇し、それは物価を押し上げるというマイナスを生む。そして、その対策として金融引き締めを行えば、たとえば日本との金利格差が上昇し、円安が進行することになる。
■ 「ただ乗り」批判 安全保障については、先述したようにウクライナに干渉することを控えるため、停戦の早期の実現を図ろうとする。そうなれば、ロシアに有利な形での停戦となる可能性が高い。危機感を持っているのはウクライナのゼレンスキー大統領である。アメリカの支援が止まれば、ウクライナは戦い続けることができない。 集団安全保障についても、モンロー主義的な立場から懐疑的である。その典型がNATOで、トランプ政権時代には、加盟国の欧州諸国に防衛費の増額を求めている。トランプは、今回の大統領選期間中も同様の主張を繰り返した。今年の2月、サウスカロライナ州で開かれた選挙集会で、トランプは「NATO各国は軍事費を十分に負担していない。彼らが払わないのであれば我々は防衛しない」と述べている。トランプは、NATOのためのアメリカの負担が重すぎるという認識である。 これはいわゆる「ただ乗り(フリーライド)」論である。同盟国である日本に対しても同じ意見を持っていると考えられる。2024年度の日本の防衛費の対GDP比は1.6%であり、2027年度には2%とする予定であるが、トランプからみれば、まだ不十分であろう。日本に対しても、さらなる防衛負担を求めてくるであろう。 ヨーロッパのNATO加盟国の2023年の国防費については、30カ国のうち19カ国がGDP比の2%という基準に達していない。ドイツ、ノルウェー、フランスなどである。これに対して、バルト3国、ルーマニア、ハンガリー、フィンランドは2.3~2.7%、ポーランドは3.9%である。 アメリカがNATOから離脱するには、上院の3分の2の同意が必要である。そのルールは、昨年米議会で定められたものである。したがって、トランプがアメリカをNATOから脱退させるのは容易ではない。 トランプの孤立主義は、ウクライナのみならず、欧州諸国に大きな危惧の念を拡大する。アメリカがウクライナへの支援を控えても、欧州諸国、EUは支援を継続する意向を示している。それは、ウクライナ戦争でロシアを勝利させると、ロシアはバルト三国をはじめ隣接する諸国を次の侵略の標的にするからである。 副大統領となるJ.D.バンスによると、トランプはウクライナ領内に非武装地帯を設けるという。それは、ロシアが現在の占領地を維持することを意味する。ウクライナは中立化し、NATOへの加盟は拒否するという。