認知度0.7%からの逆襲 ラグジュアリーカード代表が明かす“レッドオーシャンでの認知拡大方法”
クレジットカードを選ぶ場合、ポイント還元率やコストパフォーマンスなど、人によって求める基準が異なる。 【写真】富裕層向けクレジットカード「Luxury Card(ラグジュアリーカード)」 時代の変遷とともに、クレジットカードのあり方も変化していくなか、安心感や信頼感につながる「ステータス」の高いクレジットカードは、付帯特典やコンシェルジュサービス、旅行傷害保険などが充実しており、実利性に優れているのが特徴になっている。 2008年に米国で創業し、2016年に日本展開を開始した富裕層向けクレジットカード「Luxury Card(ラグジュアリーカード)」は、他社にはないオンラインコミュニティ「LC Circle」や会員同士が交流できるネットワーキングイベント「ソーシャルアワー」など、独自の優待サービスを提供し、差別化を図っている。 今回は、ラグジュアリーカードを発行するBlack Card I株式会社 代表取締役CEOの菊地 望氏に、経済価値だけではない“体験価値”にこだわる理由や、唯一無二性を追求する背景について話を聞いた。 ・日本初の金属製カードの発行で立ちはだかった壁 ーーラグジュアリーカードは2016年11月に日本で事業を開始しましたが、多くのプレイヤーがひしめくレッドオーシャン市場のなかで、どこに勝ち筋を見出したのでしょうか? 菊地:日本市場に大きなポテンシャルを感じたのは、「時代に即したアップデートが少ない」ことでした。インターネットやスマホの普及で、人々のライフスタイルや価値観が多様化したのに対し、クレジットカードはあまり進化していないと感じたんですね。たとえば10年、20年も経てば人生のライフステージも変わっていき、それに合わせてニーズも変化していきます。 一方で、クレジットカードの提供するサービスはずっと変わらない。ということは、「ほかに選択肢がないから仕方なく、いまのカードを使っている」というユーザーのインサイトがあるわけで、もしライフステージに合わせて進化するプレミアムクレジットカードがあれば、新しい市場を創り出せるのではと思ったのが、日本市場へ進出した経緯になっています。 ーー 事業を展開していく上で苦労した点はありますか? 菊地:ラグジュアリーカードの素材は、重厚感と耐久性のある独自の金属製カードとなっていますが、日本で発行するのは初の試みだったゆえに、カードの印刷会社に金属製カードの発行技術やノウハウがなく、これが大きな障壁になりました。 我々の方で、米国から金属製カードを発行できる専用マシンを輸入し、英語のドキュメントを日本語訳して、印刷会社の人に技術指導するところから始めなくてはなりませんでした。専用マシンを使った印字テストは何百回も行いましたね。 また、普通のクレジットカードの封入作業は機械を使って自動化していますが、ラグジュアリーカードは専用の箱に入れてお客様へ届けることにこだわっています。そうなると、カードの封入は手作業になるわけですが、 指紋がつかないように配慮したり、間違えて違うお客様へ送らないように注意したりと、封入時のオペレーション構築も大事になってきます。こうした運用体制を全くないところから作っていくのはとても苦労しましたね。 ・日本での認知度は0.7% 認知拡大のための取り組みとは ーー ラグジュアリーカードという新しいカードブランドを日本のユーザーに認知させていく上ではどのような取り組みを行ったのでしょうか? 菊地:日本で事業を始めた当初は、日本でのラグジュアリーカードの認知度は0.7%と非常に低く、逆に知っている方がびっくりするような状況でした。会社も商品も新しく、本当にゼロからスタートだったので、相当なチャレンジから始まるという覚悟は持っていましたね。こうしたなか、私が最初から思っていたのは、「素晴らしい商品を作れば、お客様はその良さに気づく」ということです。 大手企業がバックにいるわけでもないため、まずは収益を優先するよりも、素晴らしい商品を開発することに主眼を置き、口コミで徐々にユーザーやパートナー企業を増やしていこうと考えていました。事業継続できるように利益は確保しつつ、「投資しながらどのように事業を成長させられるか」を意識していましたね。 ラグジュアリーカードが日本に進出したときから、ターゲット層は変わっていません。元々プレミアムカード(ブラックカード)は年会費が高いので、カード保有者の平均年齢が50代~60代といったシニア層が多くなっています。その層がプレミアムカードに求めるニーズというのは、「新しい発見と出会いたい」というよりも、食や旅行といった趣味・嗜好が習慣化されていて、そのなかでカードを使っていくことだと捉えています。 その一方で、ラグジュアリーカードの狙う層は20代~30代の「ライフスタイルアクティブ層」です。これからもっと人生を楽しもう、新しいことに挑戦しようといったマインドを持つ世代にマッチしたサービスを開発していったのです。 ーー “ライフスタイルアクティブ層”に向けては、どのようなアプローチでマーケティングを実施したのでしょうか? 菊地:その層に火をつけることができれば、口コミでラグジュアリーカードの魅力や付加価値が拡散していくだろうと思っていました。そうしたときに、ラグジュアリーカードに相応しいユーザーに刺さるように、OOH(交通広告)を出す際も六本木や赤坂、丸の内といったエリアを軸にして広告を出すことを意識していました。我々のターゲット層がどこに住んでいるのか、勤めているのか、遊んでいるのかをリサーチして、ピンポイントで訴求できるように工夫を凝らしていましたね。 あとは、商品自体が他の既存カードと差別化されたものだったこともあり、幸いにもメディアからの取材要望が多く、媒体への露出からラグジュアリーカードを知っていただく機会を作れたのもプラスになりました。 冒頭でクレジットカード業界は競争の激しいレッドオーシャン市場だとお伝えしましたが、実は当時の日本の状況で見るとブルーオーシャンだと捉えることもできたんですね。その頃のブラックカードは招待制(インビテーション)が多く、申し込み可能なプラチナカードも3万円くらいのものしかありませんでした。他方で、ラグジュアリーカードは日本ローンチ時からブラックカードも申込み制で、審査基準さえクリアすれば誰でも持つことができる商品ラインナップでした。これはともすれば、非常識だったと言えますが、ほかにそういうプロダクトがなかったぶん、競合優位性につながりましたし、ネット広告を出稿した際にはチタンカードよりもブラックカードの方が反響が高く、商品に対する手応えを感じましたね。 ・創業時から大切にしている「体験価値の追求」 ーー 他社カードにはないラグジュアリーカードならではのユニーク性はどのようなものでしょうか? 菊地:私は最初からラグジュアリーカードを単なるクレジットカードブランドではなく、“ライフスタイルブランド”として意識していました。我々のターゲット層に対して、どのような特典や優待だったら役に立つのか、喜んでもらえるのか。それは別にグルメやトラベルでなくても良く、競合を意識せずに色々と新しいサービスを開発していくことを心がけていました。 ラグジュアリーカードを日本で展開してから8年ほど経ち、お客様の声をもとに改善している部分もありますが、人生を最大限に充実させる「体験(エクスペリエンス)」を提供するコンセプトは当初から変わっていません。いまでこそ、体験価値の重要性が一般的に言われていますが、我々は米国で創業した2008年から体験をすごく大事にしています。 つまり、単なるお得感や実利性の高さではなく、心くすぐるような、思い出に残る体験価値をどう演出できるかを重要視してきました。 現在、お客様にお届けする優待企画は「LC Surprise」と銘打っており、毎週さまざまな優待情報を専用アプリで配信しています。2023年は通算80のサプライズを提供してきて、今年はおそらく100を超えると思います。 今週はどんな優待が来るか全くわからないけど、すごく面白いものが常にアプリで配信される状態を作っているため、お客様の「ワクワク感」や「好奇心」の醸成にも寄与できていると考えています。 ーー 数ある優待企画のなかでも反響の良いものがあれば教えてください。 菊地:ラグジュアリーカードでは会員同士が交流の場を持てる「コミュニティ」を大切にしてきました。なかでも、高級ホテルやレストランなどでワイン、チーズ、アートといったテーマ別に開催する「ソーシャライズイベント」では、普段はなかなか飲めないワインやシャンパンを厳選し、優雅なひとときを味わえるとのことで非常に好評です。 また、ホテルのレストランやバーで会員同士がビジネスを目的にしたネットワーキングができる「ソーシャルアワー」も人気のイベントとなっています。 ラグジュアリーカードの会員は、個人事業主や経営者の方が多く、“横のつながり”を作ることでビジネスチャンスのきっかけを得たいというニーズが高いことから、新しい出会いが期待できるイベントとして支持されています。 さらに直近では、リアルだけではなくオンラインのコミュニティ「LC Circle」を立ち上げました。これはクレジットカード業界初の試みで、会員の持つ情報や知見の共有や優待の体験談を投稿する優待レビュー、イベント掲示板など、日本全国のラグジュアリーカード保有者との交流が図れるサービスになっています。 ・さらなる浮上の鍵は「若年層の獲得」と「提携カードの発行」 ーー 2024年に日本初となる「金属製デポジット型クレジットカード」の発行を開始しました。カード限度額を自分で設定できることで、どのようなユーザーニーズを捉えられることができるのでしょうか? 菊地:ラグジュアリーカードは個人と法人のカードを用意してきましたが、「急に高額な決済をする際に、カードが使えなくなる」というお客様の声を頂戴していました。特に経営者の場合は、ビジネスシーンのさまざまな場面でカード決済を行うため、仮にカードが使えなくなった場合に大きなリスクとなってしまうわけです。 限度額を超えていないのに、カードが使えなくなるという課題に対し、「何とかしてほしい」という要望が多かったことから、今回新しく発行したのがデポジット型クレジットカードです。カード会社が審査により設定するカードのご利用可能枠ではなく、ラグジュアリーカードに、デポジット(保証金:30万円から最大9900万円までの範囲で設定可能)を事前に預けることで、預けた額がカードご利用枠となるため、自分で使いたい枠を設定することが可能になります。 アクティブで消費意欲の高い方々はもちろん、これからビジネスを立ち上げる若手層や、過去に事業で挫折した経験が足かせとなり、しばらくはクレジットカードで高額の限度額が設定されない人などに対しても、デポジット型クレジットカードであれば利用限度額を高く設定することが可能になります。そのため、今までラグジュアリーカードがアプローチできなかった層にも訴求できると考えています。 ーー 最後に今後の展望について教えてください。 菊地:ラグジュアリーカードは、過去8年間で大きく変化し、高級クレジットカードとしての認知度も向上しました。これまでは高年収層をターゲットとしていましたが、20代や30代などより若い世代にもカードの魅力を訴求していく予定で、 新生銀行との提携によるU28向けの年会費半額キャッシュバックプランはその一例です。加えて、既存顧客のライフステージの変化に合わせた家族向けや教育関連の優待の新設、ラグジュアリーカードの顧客層と親和性の高い百貨店やホテル、航空会社など、ほかの企業との提携カード発行を視野に入れています。 また、創業以来掲げる「Experience More」というブランドスローガンをモットーに、常に会員様の期待を超えられる体験を提供していくためにも、社員一人ひとりがオーナーシップを持って行動できるような組織体制の構築も進めています。これらの戦略を通じて、ラグジュアリーカードはさらなる成長を目指しています。
古田島大介