学校のアンガーマネジメント―「怒りの体質改善」をしよう
事例7 上手に叱れる先生になりたい小学校3年生担任
うまくいかないことが多く、児童が問題を起こすとつい反射的に怒りをぶつけてしまいます。児童も私に反発するようになってきて、その様子にまたイライラして、怒って……と負の連鎖です。 2024年度は教職のスキルを向上させたいと思っています。そのためにも怒りのコントロールが必須だと感じています。上手に叱れる先生になりたいです。どのようにすればよいでしょうか。
“アンガーマネジメント”を取り入れた対応 目標は具体的か
現状を何とかしたいと思ったり、現状に違和感を感じたりすることは、教職のスキルを高める動機になります。現状に甘んじない感覚は大いに大事にしてほしいと思います。 では具体的にどのような目標をもっているのでしょうか。「教職のスキル向上」「感情のコントロール」「上手に叱る」という言葉は理解できますが、例えばどのようなことなのかが見えてきません。もしかすると、自分でも漠然としかわかっていないのではないでしょうか。 先月号までにお伝えした通り、怒りを感じることは悪いことではありません。アンガーマネジメントとは、「怒りの感情で後悔しないこと」です。怒る必要があることは上手に怒り、怒る必要のないことは怒らないという線引きができるようになることを目指しています。児童生徒の言動に対してイラッとしなくなる方法ではありません。日々の教育活動で怒らなければならない状況は数えきれないくらい起きます。心身ともに健康に教職の道を全うしていくためには、ゴールを明確に設定することが大事です。
「ミラクルデイ」でゴール設定
今回紹介するのは「ミラクルデイエクササイズ」。怒りの体質改善、むだなことで怒らない体質へと変えていく方法です。アンガーマネジメントに取り組もうと思った課題がすべて解決している「ミラクルな日(ミラクルデイ)」をイメージし、ゴールを設定します。 まず、半年後、1年後など「ミラクルデイ」が訪れる日を決めます。期限を決めておかないと取り組みようがありません。次に、以下の8つの質問に答えていくとゴールが明確になります。言語化することが大事です。この作業を丁寧に行うことで、どんな自分になりたいのかが描けるようになります。 ①(ミラクルデイのとき)どこにいるのか? ➡例:教室 ②あなたの行動に表れる変化はどのようなものか? ➡例:口角が上がっている/ゆっくり話している/目を見て「ありがとう」と言っている/事実に基づいて注意している/腕組みせず、スッと立っている ③最初にだれがあなたの変化に気が付くか? ➡例:一番前の席の子ども ④その人に何と言われるか? ➡例:「先生、うれしいことあったの?」 ⑤(そう言われたとき)あなたはどんな気持ちか? ➡例:変化に気付いてくれてうれしい ⑥理想のミラクルデイを10段階の10とすると、今 は10段階のどこか? ➡例:今は3/10。「なんで」とつい言ってしまう ⑦これまでの一年で一番10に近かったのはいつ? ➡例:2024年1月 ⑧その日はどこにだれといて、何をしていたか? ➡例:子どもたちが声をかけ合って遊ぶ姿を見た 特に②の「行動に表れる変化」を具体的に考えます。「優しい」「穏やか」は抽象的なので「相手の目を見ている」「頬を触ると温かい」など五感を意識します。「ミラクルデイ」は遠い日のようでも、具体的な行動や変化を記録しておくと「今、怒りに振り回されずに、いい変化が起きている」と理解できます。また、⑥や⑦のように数値化すると現状を把握できます。さらに⑧を考えると「ミラクルデイ」に近い日があったことに気付きます。アンガーマネジメントはセルフトレーニングです。自分でゴールを設定し、しかも過去に「ミラクルデイ」を経験していたと発見できるからこそ、意欲向上に繋がっていきます。 川上 淳子 一般社団法人日本アンガーマネジメント協会認定アンガーマネジメントコンサルタント®。Edu Support Offifice代表。元宮城県公立小学校教諭。元国立大学法人宮城教育大学非常勤講師。 *『月刊教員養成セミナー2024年4月号』 コロナ禍を経て、なお先行きが見えない今、教室を安心安全な居場所とする働きかけが急務です。アンガーマネジメントの理論と方法は、児童同士、児童と担任を繋ぎ、よりよい関係づくりに活かすことができます。場面指導でも問われるケースを解説します!