未解読の文字が渦巻く「ファイストスの円盤」とは、古代ギリシャ、用途も意味も謎だらけ
何が書かれているのか?
記号が文字であるなら、その並びは書かれている内容の手がかりになる。各区画に1つの単語が含まれていると仮定すると、円盤の両面で、刻印は一連のよく似た単語で終わっていることになる。 A面の多くのフレーズは同じ記号で始まるのに対し、B面ではいくつかのフレーズが似たような記号で終わっている。このことから、A面には繰り返し使われているフレーズがあり、B面には韻を踏んだフレーズがあることが示唆される。そのため、円盤に刻印されているのは詩や聖歌や宗教的または魔術的な呪文ではないかという説を唱える研究者もいる。 例えば、言語学者で考古学者でもあるガレス・オーウェンズ氏は2014年に、円盤に刻まれた言語はインド・ヨーロッパ語族に属しており、同じく解読されていないミノア文化の線文字Aと関連があるかもしれないと指摘した。氏は、円盤は女神に捧げられたものであるとし、「iqa(偉大な女性)」や「akka(妊婦)」といった単語を特定したと主張した。 2008年には歴史言語学研究者であるギア・クバシラバ氏が、円盤の言語はカルトベリ祖語(コーカサス地方のジョージアの現代語の先駆け)であり、黒海東端のコルキス地方で信仰されていた豊穣の女神ナナに捧げられたとしている。しかし、どちらの説も広く受け入れられているわけではない。 ファイストスの円盤の解読への興味は尽きないが、古代エジプト語の解読の鍵となったロゼッタ・ストーンに相当する遺物が新たに見つかるまでは、渦巻き状に刻まれた記号の意味はおそらく謎のままだろう。
文=Francisco del Río/訳=三枝小夜子