前田穂南の日本新を後押しした“最強の相棒” 「脱いで走りたい」大苦戦した厚底シューズへの対応の裏側
1月28日に行われた大阪国際女子マラソンで、東京五輪代表の前田穂南(27)=天満屋=が2時間18分59秒をマークし、2005年ベルリンマラソンで野口みずきが作った2時間19分12秒の日本記録を19年ぶりに塗り替えた。快挙の裏には“最強の相棒”厚底シューズの存在があった。 【写真】まさにアスリートの肉体 余計な脂肪が一切ない前田のスレンダーボディー 前田が競技場に戻ってきた時、小雨が降っていた競技場は異様な熱気に包まれた。19年ぶりの日本記録を目に焼き付けようと、誰もが食い入るようにレースを見つめ、エールを送った。両手を広げてゴールに飛び込むと、苦しげな表情は笑顔に変わった。足元には厚底シューズが光っていた。 東京五輪は左足首を痛めたことも影響し、33位。反発力のあるカーボンプレートが入った厚底シューズは五輪後に導入したが「走りにくくて、靴を脱いで走りたいぐらい合わなかった」と対応に大苦戦した。さらに、昨年の大阪国際女子は左足くるぶしを痛めて回避。なかなか思うようなレースができず、両親に「やめたい」と何度も弱音を吐いたこともあった。 3割ほどの状態で挑んだ昨年3月の名古屋ウィメンズは、当時の自己ベストの2時間22分32秒マークするなど復調の予兆はあった。10月のマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)は7位で五輪の即時内定こそ逃したが、時間をかけたことで厚底シューズへの慣れが生まれた。 「薄底の時は足の指を結構つかんで、かいて走る動作が多かった。厚底になってから、それがだいぶなくなってきた」と余計な力を使う場面が減った。厚底シューズで挑む3度目のマラソンとなった大阪国際女子。アシックスのメタスピードスカイを履き、日本新記録をたたき出した。「だいぶなじんできて、ようやくしっくり自分の感覚で走れるようになった」と、ゆとりある走りにつながった。 そばで見守ってきた武冨豊監督も「東京(五輪)の前は薄底ですごくいい感じで走っていて、そこからけがをしてしまったのが、走りにずっと影響が出ていた。シューズもなかなかなじめなくて、走りがぎくしゃくしていたと思う」と振り返る。そして「ここ1年ぐらいでやっと自分のものになってきたのと、走りに本来のゆとりが出てきた。一歩一歩のゆとりというか、ためがちょっとずつ出てきている」と、ようやく歯車がかみ合ったという。 影響するのは、レース本番だけではない。一夜明け会見で、前田は「薄底に比べるとダメージはそこまでない。薄底の時は筋肉痛がひどくて終わった後も痛かった。厚底になってからはそういうことはない」と語った。すねと腓骨(ひこつ)に疲れを感じるものの、以前とは疲労の蓄積も違うことが、今後に向けての好材料であることは間違いない。 五輪切符は、3月の名古屋ウィメンズで日本記録を超える選手が出なければ決まる。今後の目標は「『アレ』で」と、阪神・岡田彰布監督の名フレーズを借りて笑い、そして言った。「記録はまだ出るタイムだと思う。また挑戦したい」。“最強の相棒”とともに、夢の記録に挑む日々が再び始まる。(デイリースポーツ・田中亜実)