「どうだ？」「そろそろだと」完全投球の山井大介がなぜ…日本シリーズ“完全試合”の舞台裏「最後のマウンドに立つのは…」捕手・谷繁元信の結論
最終回のマウンドに立つのはーー谷繁の結論
山井は8回も3人で終わらせた。その瞬間、グラブを激しく叩き、吠えた。踊るようにマウンドを降りてくる右腕に観衆は総立ちで拍手とヤマイ・コールを降らせた。谷繁はその大合唱の中を淡々とベンチへ戻った。森が近づいてくるのが見えた。 どうだ？ その目が問うていた。 谷繁は用意していた答えを返した。 「そろそろだと思います。あとは山井に訊いてください」 落合から投手陣の一切を任せられている森はじっと谷繁を見つめていた。言葉の真意を反芻(はんすう)しているようであり、日焼けした強面の眉間にはいつになく深い皺が刻まれていた。 最終回のマウンドに立つのは山井ではなく、岩瀬ーー。 それが谷繁の出した結論だった。そして森がわざわざ自分のもとへやってきたということは、ベンチもまた継投を考えているという証だった。 〈この試合に勝つ。日本一になるということが僕には重要だった。完全試合よりも優先順位が高かった。点差やイニング、山井の状態、いろいろな条件を考えて出した答えです。でも......、もし岩瀬というストッパーがいなければ、そんなことは考えていなかったかもしれません〉 不思議だった。継投など必要がないはずの完全試合の最中に、監督とバッテリーチーフコーチ、そして正捕手までもが同じ男の顔を浮かべていた。
山井の証言「ゾーンに入っていたのかもしれません」
山井はベンチの右端に座っていた。そこで汗を拭っていた。マウンドを降りてひとつ息をつくとこれまで見えていなかったものが目に入ってきた。ベンチもスタンドも異様な空気に包まれている。その視線が自分に注がれている。それだけのピッチングをしてきたのだと気づいた。 〈一人一人、目の前のバッターのことだけを考えていたので、あまり記録のことは意識せずにきました。疲れも感じなかったですし、ゾーンに入っていたのかもしれません。とにかく谷繁さんのミットだけ見て投げるということができていました〉 そのとき、ベンチの反対側から森が近づいてくるのが見えた。中日に入団して6年目、山井はこのチームの野球を、とりわけ落合が監督に就任してからの野球を目の当たりにしてきた。だからこの場面でバッテリーチーフコーチが動いた理由を察することができた。
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