デジタルサイネージ広告の勝機--広告主から継続的に出稿してもらうには
広告レポートをどう行うかが、継続的な出稿獲得のカギ デジタルサイネージ広告もメディアである以上、出稿期間が終わった後、広告主に対して広告レポートを提出する必要がありますが、再生数や再生完了数といった数値だけの広告レポートに対して、私はかなり懐疑的です。報告している内容が正しい/正しくないという話ではなく、「そもそもそのレポートは広告主の知りたいことなのか」という疑問を抱いています。 広告主がデジタルサイネージ広告を出稿する目的は、自社の事業を伸ばしたいからであり、その目的に見合った成果が出せているかどうかを報告することが広告レポート本来の役割であるはずです。GROWTHの場合、先にお話しした通り、出稿すると指名検索が伸びるという具体的なメリットがあります。指名検索が増えるということは、ある程度興味関心が高まっているユーザーが来訪するので、資料請求のコンバージョン数やコンバージョン率も上昇しているはずです。 当社の多くの広告主はこのメリットを理解し、その成果を期待して出稿しています。広告主がメディアに期待しているポイントをきちんと理解できていれば、「指名検索数は増えていませんか」「コンバージョン率は上がっていませんか」などと、目的に関連するスコアの数値を尋ねるだけでも、十分に血の通ったレポーティングになります。 広告主にとって意味のあるレポーティングを行うためには、営業担当者の日頃からのヒアリングが重要です。出稿後のフォローアップの際に、「出稿してみて、いかがでしたか」といったぼんやりとした問いかけをするようではいけません。 広告主の課題は何か。出稿目的は何か。達成したいビジネス成果は何か。広告はその成果に寄与できたか。それを表す数値はどれか。数値は上がったか/下がったか。上がっていれば、それをさらに伸ばすにはどうすればいいか。寄与できていなければ、期待した成果が上げられなかった要因は何か。それを挽回する施策は何か。 広告レポートを持って行って「いかがでしたか」と聞くのではなく、レポートを基に前回の仮説とそれに対する成果を要約し、次の仮説と具体的な対策を提案する。レポーティングで行うコミュニケーションの積み重ねが、広告主からの継続的な出稿につながるのです。 こうした話をすると、「広告主とのやりとりのプロである広告代理店に全部任せた方がいいのではないか」と考える人がいるかもしれませんが、私は全てを任せるべきではないと思っています。広告主と直接つながるチャネルがなくなると、自社の広告商品の強み/弱み・顧客満足度を正確に判断する手段がなくなってしまうほか、広告商品を改善する際のスピード感が失われます。 デジタルサイネージ広告に限らず、顧客の声は最も重要で価値のある情報です。広告主と向き合い、評価されたポイントや期待に添えなかったポイントを直接把握し、自分たちで改善できる状況と手段を持つことは、メディア運営において必要不可欠です。メディア事業の売り上げという点で、広告代理店は大事な取引先ではありますが、常に最新の新鮮な顧客の声を得るという目的において、直販チャネルは一定の割合確保しておいた方がよいというのが私の考えです。 デジタルサイネージ広告市場は、まだまだ成長段階 今後、デジタルサイネージ広告市場は、さらに大きく成長していきます。まだ競合を意識してパイを奪い合うような段階ではありません。ですので、これから新規参入を考えている企業に対して、われわれは自分たちの経験、知識、知見、情報を積極的に共有したいと思っています。そうすることで、デジタルサイネージ広告業界の成長を加速させたいのです。 最後に一つだけ、デジタルサイネージ広告事業を成功させる秘訣をお話しします。立ち上げからしばらくの間は、事業責任者が全ての業務を1人でやってみることです。私自身、GROWTHを立ち上げた初期の頃は、デジタルサイネージの設置を交渉し、広告メニューを設計し、媒体資料を作り、広告主へ営業をして、広告レポートを作って振り返りミーティングにも出席していました。あの時の経験が基盤としてあるからこそ、GROWTHをはじめとする数々の事業を継続して成長させることができたのだと自負しています。 今回の連載では書ききれなかったことや、表立って話せないことも、たくさんあります。デジタルサイネージ事業の運営に興味関心のある方は、ぜひお気軽にご相談ください。 三浦純揮 ニューステクノロジー 代表取締役/ベクトル 執行役員 2018年3月よりニューステクノロジー代表取締役に就任。都内最大級のタクシーサイネージメディア「GROWTH」や日本初のモビリティー車窓メディア「Canvas」などモビリティープラットフォーム事業を中心にメディア事業、クリエーティブ事業を管轄。親会社であるベクトルでは、新規事業の立ち上げ・事業成長に向けた支援も行う。