37万円の発酵ツアーが即完売。米国でキッコーマンを超えるSAN-Jの挑戦
「変化を柔軟に受け入れる」経営姿勢
佐藤氏の経営哲学で一貫しているのは、「変化を柔軟に受け入れる」姿勢だ。 例えば、アメリカ市場に適応するため、あえて日本ブランドを前面に押し出さない醤油のパッケージに変更した。また、あまり表に出ることが得意でないという佐藤氏だが、社長として発信する必要性を感じれば自らがSNSに出て発信する。 この姿勢は、同社が発酵関連事業を広げるうえでの大きな推進力となっている。2021年3月に佐藤氏がSNSで発酵の手づくり企画を募集した際には、トウモロコシやパンといった独創的な発酵アイデアが世界中から集まった。 「当時は驚きましたし、これは本物の発酵ではないと違和感を覚えました。でもその後、それも一つの発酵の形であり、それでよいのではと思ったんです」 地産地消の視点から、例えばカボチャやトウモロコシなど、その土地の素材を活かした発酵も「あり」だという考えに転換した佐藤氏。日本では想像もつかない食材を使った発酵を否定するのではなく「その素材にはこの麹菌が合うよ」と提案し、日本としても積極的に関わることが大切だと考えるようになったという。 「発酵とはこうあるべきだ、と最初から否定してしまうと、可能性を狭めてしまいます。だからこそ、アメリカ人がとっつきやすいものをまず提供して、そこに我々が関与していくことが重要です」 そう話す佐藤氏のInstagramでは、カボチャの甘酒のつくり方を紹介する動画 が人気だ。アメリカのハロウィンの後に大量に廃棄されるカボチャを捨てずに使おうという「パンプキン・キャンペーン」だ。2023年には、ニューヨークのミシュラン三ツ星レストラン「Eleven Madison Park」と、とうもろこし醤油を共同開発した。 ■発酵文化を世界へ 佐藤氏の今後の目標は、発酵文化をさらに世界に広げ、メジャーにすることだという。 「発酵がメジャーになれば、そこに需要が生まれます。需要が増えれば日本の醸造メーカーも潤い、SAN-Jの商品も売れ、発酵に興味を持つ消費者をつなげることができる」 「自分ひとりでできることには限りがある」そう語る佐藤氏は、同じ志を持つ他企業らとの連携にも積極的だ。その結果、佐藤氏のもとには、様々な企業からコラボの依頼が続々と届いている。発酵の力を信じ、世界に発信を続ける佐藤氏のビジョンのもと、SAN-Jは今後も、醤油の枠を超えた新しい形で日本の発酵文化を世界に広げていく。
Forbes JAPAN 編集部