僕はこれからも「正しくないこと」を書いてしまうだろう――親ガチャで圧勝するも苦悩だらけ、小佐野彈という生き様
満たされないからこそ、書き続けることができる
これから書いていきたいテーマの中で、やはり「家族」は大きい。 「この、自分の生まれた特殊な家族、そして僕の死んだ父親……。北杜夫さんの『楡家の人びと』に引けを取らないくらい、ぶっ飛んだ人たちに囲まれてきたので、それはこれからも書いていきたいと思っています。人間関係って、たぶん、簡単に言葉では定義づけられないもの。そして、経済学的にいうと、均衡点に向かって収斂されていく、逆らえない自然の法則のようなものの上にあるんだと思うんです。それを、ずっと書いていくんだろうなと」 「あと、書けないことが増えてくのって嫌だとも思っていて。僕もマイノリティだから、差別とかは絶対にあってはいけないと思うし、ポリコレってすごく大事と思っているけれど、一方でその名のもとに、これは言ってはいけません、これは使ってはいけませんっていう言葉が、少なくとも文学の世界にまで、どんどんどんどん増えていってしまうのは……。正しいこと以外を書いてはいけないというふうになるのは、すごくつらい。僕はこれからも『正しくないこと』を書いてしまうだろうから」 家族との葛藤を経て、文学という自己表現を手に入れた小佐野。満たされないからこそ、書き続けることができる、と訴える。 「満たされることが、怖いんです。でも、最後にずっと残っているカラカラの、どうしても潤うことのない一点みたいなのがあるって思いたいだけで、ひょっとしたら、もう潤いつつあるのかもしれないけれど。でもそこまで潤っちゃったら、恵みの雨に溺れて死ぬということだなと。歌も何も生めなくなってしまうわけだから」 --- 小佐野彈(おさの・だん) 1983年東京・世田谷生まれ。97年、慶應義塾中等部在学中に作歌を始める。慶應義塾大学経済学部卒。大学院進学後に台湾にて起業。現在、台湾台北市在住。2017年「無垢な日本で」で第60回短歌研究新人賞受賞。先月、自伝的青春小説『僕は失くした恋しか歌えない』(新潮社)と、自身のルーツを歌い上げた歌集『銀河一族』(短歌研究社)を上梓したばかり。