「リック・オウエンス」自宅でショー開催の真意 派手な演出の封印は「野蛮な時代を考慮した行動」【2024-25年秋冬メンズコレまとめ】
首元をすっぽりと覆うパッファージャケットは、大小さまざまなパネルや極端に長いリブで構成し、花のつぼみのような構造の先端から頭を覗かせる。鎧の肩当てのような形状だったり、胸元のみ極端に膨らんだりと、まるで混沌とした世界から身を守るようなプロテクティブなフォームである。一見すると奇妙に映るスタイルではあるものの、ラバーのブーツはロボットのようにも見え、シルクとアルバカのフェルトをシアリングしたマントは、スーパーヒーローの姿を想起させる。リサイクルしたカシミヤやアルパカ、メリノウールで作ったボディースーツは宇宙服のようでもあるし、フューチャリスティックなムードにピュアな遊び心も感じさせた。
素材では、タイヤをリサイクルしたジャケットやパンツに加え、ワックスと箔を何層も重ねた日本製デニムや、兵庫・姫路でなめして神奈川・厚木で縫製したバイカージャケットなど、日本のクラフツマンシップを生かしたアイテムも登場した。シグネチャーのプラットフォームシューズ“キスブーツ”の新作は、「インターネットで“キスブーツ”のパロディーバージョンを見たので、それをデザイナーのレオ・プロスマン(LEO PROTHMAN)に作ってもらった」という皮肉を効かせた。終盤には、プロテクターのようなアートピースをまとうコンセプチュアルなスタイルを披露し、ショーは静かに幕を閉じた。
ファンへの思いは不変
視覚的な情報を削ぎ落とした空間では、これらのアイテムはより一層強さを放ち、ゲストは引き込まれ、アート作品を見るように没入してく。素材感のニュアンスや構築的なディテールを見れば見るほど、鬼才リック・オウエンスのむき出しのクリエイションを体感できるショーだった。しかしオウエンス=デザイナーは、熱心なファンたちのことも決して忘れてはいない。「今回は、私のショーでつながりや慰めを求めて集まっていたコミュニティーをはね除けてしまったかもしれない。だから、今後の表現方法については考え直すつもりだ」。