アメリカで法案成立 賢いタコは“養殖NG”に 動物らしく生きる「アニマルウェルフェア」と人間の食はどう向き合うべきか
■動物に過度なストレスを与えない「アニマルウェルフェア」
「人間の食」と関連するのが、「アニマルウェルフェア」という考え方だ。科学的根拠に基づいて、動物が過度なストレスを感じない環境を提供、自然な行動を尊重するというもの。1960年代のイギリスで劣悪な環境でニワトリやウシを飼育する工業的・集約畜産に批判が集まり、社会問題化し農家や肉屋の焼き討ちも起き、議会で動物福祉「5つの自由」が提唱されたことが始まりだ。 上野氏は「福祉というと一般的に何かをしてあげること、弱者に手を差し伸べることのように思われるが、その当該のものが良い状態にあるのが福祉。つまり動物の福祉を考えることは生まれてから死ぬまで。死ぬのは天寿を全うすることもあるが、人が利用することもあり、途中で死なざるを得ないかもしれないが、その生きているというプロセスを、体も心も健全な状態でより良いものにしながら死ぬ瞬間まで配慮して、苦痛なく扱いましょうという考え方」と述べた。 アニマルウェルフェアは、その種類による知能の高さ・低さは関係なく、また人が食すること自体、否定はしていない。ただしタコにとって「養殖」という環境が劣悪だと考えられるのであれば、それは避けるべきで「(養殖された)タコが自分の足を食ってしまうような現象は、いろいろ調べていくと、やはりそれはある種病的。本来の生活の中で自分の足を食うわけじゃない。刑務所の中の人間が壁に頭を打ちつけるように、独房に入れ込んだものが正しい扱いと言えるのか。タコは賢い複雑な要求を持っている。だったらそれに対して応えなきゃいけない。知ったものに対しては責任がある」と、閉鎖された環境に入れることでタコにストレスが出るのであれば、それは認められないと上野氏は訴えた。
■動物に対しての行き過ぎたヒューマニズム?
一方で、動物に対しての配慮に、行き過ぎたヒューマニズムを感じるというのはロックバンド「PK shampoo」のボーカル・ヤマトパンクスだ。「ストレスを与えたタコが共食いをする、自分の足を食べることを、タコが悪いことと思っているのか。それを悪いと思うのも、人間がそう思うというのを、ある種タコに押し付けてはいないか。すごく人間中心的な考え方、ヒューマニズムな気もしてくる」と持論を展開した。さらには「動物が本当に苦痛というのをどの段階、どういうレイヤーで感じているのか。科学的にやっていけば、何かが伝達すると共食いをするという因果関係は発覚してくるかもしれないが、それがタコにとって幸せなのか、不幸せなのか。人間同士ですらそういうことがある。アニマルウェルフェアに強く反対するわけでもないが、人間中心的なヒューマニズムを推し進めていくならば、別に何を食べてもいいというのもあるのでは」と語った。 これには泉氏がタコの現状を伝え「タコには大変感謝しているが、明石のタコは10年前に比べて1割になって激減している。生態系がまずくなってきたからだ。養殖の前に生態系を侵さずに、そもそも生きているタコがこれまで通り暮らせるようにする方が大事だと思っている。生態系を崩した上に、今度は人間の勝手で養殖するのは、なんだかすごくタコが気の毒」とも述べていた。 これに上野氏は「当然人間のやることで、人間の都合をゼロにはできない。その上で動物をきちんと理解して、動物のニーズに対して応える形、あるいは苦しみを最小限にする努力を日々積み重ねていって、その時の最善であるもので、動物を利用しましょうというのが動物福祉」と繰り返していた。 (『ABEMA Prime』より)