交友関係、恋愛、仕事にも影響。人と食事をするのが怖い「会食恐怖症」との向き合い方【専門家が解説】
楽しいはずの食事が苦痛に感じ、生きづらさにつながることもある「会食恐怖症」。しかし社会での認知度は十分とは言えません。当事者は社会生活を営むなかでどんな苦労を抱え、また周りの人はどう接するべきなのか。会食恐怖症の当事者だった、「日本会食恐怖症克服支援協会」代表理事の山口健太さんに話を伺いました。 〈写真〉交友関係、恋愛、仕事にも影響。人と食事をするのが怖い「会食恐怖症」との向き合い方 ■吐き気、震え、嚥下障害…人との食事が困難に ― 会食恐怖症はどのような疾患ですか? 「会食恐怖症とは、不安障害の一つである社交不安症に分類されます。誰かと食事をすることに強い不安感を感じ、その不安を避けようとすることで交友関係、恋愛、仕事などに影響が出る状態が続きます。10代、20代の若い世代に多く見られる病気です。会食恐怖症のタイプはおもに3つあり、①周りに合わせないといけないと思うタイプ、②気持ち悪くなったらどうしようと思うタイプ、③症状を周りに見られるのが嫌なタイプに分けられます」 ― どのような症状が現れますか? 「人によってさまざまですが、食事の場面を想像するだけで吐き気や体の震え、動悸、口の渇き、発汗などの症状が現れます。嚥下障害を起こす人もいて、食べ物を飲み込もうとすると緊張から筋肉が動かなくなり、喉に蓋をされたようになって飲み込めなくなるケースがあります」 ■子供時代の完食指導が一因。理解されにくく孤独に陥りやすい ― 会食恐怖症はどのような原因が考えられますか? 「当事者アンケートで最も多かったのは、完食指導や周りからの強要(34.7%)でした。具体的なシチュエーションは給食での先生からの指導が最多(72%)です。食べ物を残してはいけない、早く食べなくちゃいけないといった認知の形成が、発症に関わっていると言えます。また、自己肯定感が低く自分を大切にできない心理状態の人が発症しやすいように思います。自分の価値を認められないと、小食や偏食でも食事は残さず食べるほうが偉いという世の中の評価に合わせなくてはと思ってしまう。そのうち食べきれないのが辛くなり人と食事をするのを避けるようになります」 ― 山口さん自身もかつては会食恐怖症の当事者だったと聞きました。発症のきっかけや当時の気持ちを聞かせてください。 「高校は野球部に所属していて、体作りの一環でたくさん食べるノルマが課せられていました。あまり食べられず先生に怒られて以来、食事の時間になると食べられなかったらどうしようという不安感が強くなり、食べるのを避けるようになったんです。次の食事の時間がどんどん怖くなって負のループに入っていく感じがあり、食べられない自分はダメだと思い込んでいました。これは普通じゃないと気づきインターネットで症状を検索したら、会食不能というキーワードが出てきて、後に会食恐怖症というものがあると知りました。多くの人にとって食べることは楽しいはずなのに、自分は不安症状が出るくらい辛い。周りに説明しようとしても自分の言葉で上手く伝えられず、人知れず孤独感を抱えていました」 ― 人と食事ができないことは、社会生活にも影響しますか? 「食事はコミュニケーションを深める一歩でもあるので、人と食事をすることに積極的になれないのは精神的に辛いものがあります。当事者からは勉強会に行きたいけど昼休憩にみんなでごはんを食べ行くのが嫌で出席できないという声が届いています。マッチングアプリで出会いを探すときも、まずは食事やお茶に行くところから始まることが多いので恋愛も次のステップに進みづらい。就職を控えた学生からは、保育士や学校の先生になりたいけど給食が不安で実習に行けないという相談が届いています」 ― 山口さんは辛い状況をどのように克服されましたか? 「友人に紹介された飲食店でアルバイトを始めたのが転機になりました。まかないが出るお店でしたが、みんなと食べるのにすごく苦手意識があって。お店の人にあまり食べられないことを打ち明けたら『無理しなくていいよ』と言ってもらい、その一言が安心材料となってまかないを食べられるようになり、そこからだんだんと良くなっていった感じです。理解者が一人でもいると気持ちが楽になるので、周りの人の言葉のかけ方、関わり方はかなり重要だと感じています」 ■「残しちゃいけない」。その考え方を変えることが重要 ― 山口さんは理解者を得たことが会食恐怖症の克服につながりましたが、自力で克服するために大切なことは何ですか? 「会食の機会を積んで不安に慣れ、食べられる成功体験を増やそうとしがちですが、それでは上手くいかないことがあります。理由は、残さず食べなくちゃいけないという考え方にアプローチせず、残さず食べられるようになろうとするからです。考え方が変わらないと克服は難しく、残さず食べなくてもいいと思えるようになる行動をすることが大切。わかりやすくいうと『残す練習』をしていきます。しかし定食屋さんでたくさん残すのは、誰でも抵抗があると思います。どうすればいいかというと、不安を数値化したとき最も不安が少ない状態を0、不安でいっぱいの状態を100とします。不安の数値が30程度の『不安だけどできそう』と思えることから始めて、スモールステップで残す練習を進めていきます」 ■■〈認知を変えるスモールステップ〉 ステップ1:フードコートやファストフードなど、残したものを自分で片づけられる店に一人で行く。残す不安が軽くなるまで繰り返しやってみる。 ステップ2:自分が行きやすい店に仲の良い人と一緒に行く。人前で残しても不安にならない経験を積む。 ステップ3:初めて行く店に誰かと一緒に行き、無理して食べきらないを普通にできるようにしていく。 「日本会食恐怖症克服支援協会では、関東圏と大阪で『食べなくてもいいカフェ』を運営しています。ここは会食恐怖症の人たちが安心して集い、当事者同士が悩みを語り合い、無理して食べなくてもいいを経験する場。スタッフも会食恐怖症の経験者なので、食べなくちゃいけないプレッシャーを感じずに飲食店で過ごすためのファーストステップになればと思っています」 ― もし自力克服が難しい場合は、どうすればいいですか? 「症状が強い場合や、ほかの精神疾患を併発している場合は、心療内科など精神疾患の専門医に診てもらうと助けになる場合があります。向精神薬を服用したり、認知行動療法と薬物療法を併用したりして治療を行っていきます」 ■周りはしっかり耳を傾け、受容する姿勢を持って ― 克服するには周りの理解が大切だと思います。会食恐怖症を打ち明けられたらどのように接するのが適切ですか? 「打ち明けたときに当事者がもやっとするのは、『気にしないほうがいいよ』という一言。その言葉を言われると話がそれ以上進まないので、まずは当事者の話をじっくり聞くように心がけてください。あとは、いつも通りその人との時間を楽しむこと。良かれと思い『私も食べないでおくね』と言われると、当事者は自分のせいで相手に我慢させていると感じてプレッシャーになります。『食べるのが苦手なんだね』と受け入れて、『どんな場所なら安心して食べられそう?』と質問するなどして寄り添えると当事者は安心できると思います」 ― 家族に理解してもらうのも難しいように思います。親御さんへのアプローチについてアドバイスをお願いします。 「自分の言葉で食べられない辛さを伝えるのが難しいときは、会食恐怖症について書かれた記事などを見せるのがいいと思います。会食恐怖症について第三者の客観的な視点でまとめたものがあると、親御さんも理解しやすく冷静に受け止められると思います」 〈プロフィール〉山口健太さん 「日本会食恐怖症克服支援協会」理事、心理カウンセラー。薬を使わず会食恐怖症を克服した当事者経験を活かし、会食恐怖症に悩む人へのカウンセリングを行う。学校や保育所への給食指導コンサルティング活動も実施。著書に『マンガでわかる 食べない子が変わる魔法の言葉』(辰巳出版)など。
ヨガジャーナルオンライン編集部