「本物の地面師は殺人はやらない」「詐欺罪の懲役は10年まで。出所後に騙し取った金を得る」ドラマのモデルになった事件を取材した記者が語る「地面師たち」のリアル
━━ドラマでは「(確認は)もうええでしょ!」などと高圧的に契約を急がせる役割を担っている地面師がいたが、実際はどうなのか? 「実際には違う。何十億円という取引なので、誰もがピリピリしている。『怪しまれたらそこで試合終了』であり、怪しまれないように必要な書類をすべて揃える。『なりすまし役』はドラマのように、本物になりきるために勉強させられていた」 ━━身分確認などはドラマのように確認する? 「免許証などはICチップが入っているので、裏から光を当て、透かして確認する。この事件以降は、より厳しく見るようになったという。それだけ大きな影響を及ぼした事件だった」 ━━ドラマではメンバー全員が詐欺の全容を把握していたが、実際の事件では? 「地面師たちは逮捕された後のことも考えている。もし“ワンチーム”で動いていると捕まった時に全員が同じ罪に問われる。そのため、なりすまし役は自身の役割しか伝えられておらず、全容は知らされない。他の役割のメンバーも同様で、それぞれが与えられた役割をこなしていくうちに、最終的に“騙しの城”が完成するというイメージだ。積水ハウスの事件でも全容を知っていたのは上位の首謀者たちだけで、他の実行役たちは自分がどういうピースを担っているのかを把握していないとされる。もし誰かが逮捕されたとしても『騙すとは知らなかった』として、不起訴を狙うのが手口だ」
◼︎「首謀者と“背中合わせ”になった」
━━首謀者はドラマのハリソン山中のような人物だったのか? 「事件のリーダーとされた男は内田マイク受刑者。以前は『内田英吾』を名乗り、地面師詐欺を生業としていた人物で、ある時から『内田マイク』を名乗るようになった。この事件の他にも、有名ホテルが12億円を詐取された事件なども操っていたといわれる。私が2016年ごろに地面師関係の取材を始めた当時から、この名前が必ず出てくる人物だったが、現場に証拠は一切残さない。超有名人だが全く掴めない人だった。彼のチームには、『コントロール役』や『銀行屋』たちがどんどん集まっていた。詐欺師から『この人が関わっているなら絶対稼げる』と信頼されるような存在だった」 ━━大金をめぐるトラブルは起きないのか? 「協力したメンバーの顔色や性格・家族の有無など生活状態を加味しながらお金を分配していたため、仲間内のトラブルは聞かなかった。やはり、『この人について行けば未来永劫稼げる』と一定の信頼があったようだ」 ━━裏切り者を殺害するようなことには? 「実際の事件でそういった話はなかった。基本的に詐欺師たちは人を殺さない。なぜなら殺人罪の懲役は20年ほどだが、詐欺は10年程度だからだ。詐欺師たちは『自分がだまし取ったお金』割る『懲役の年数』が『年収』と考える。お金をどこかにプールしておけば、懲役を受けたとしても、出所後には“年収”がある、という計算をするので、殺人はしないという」 ━━内田マイク受刑者に話を聞いたことは? 「彼がホテルのロビーで次の詐欺事件の打ち合わせをしている時に、“背中合わせ”で話を聞いたことはある。情報提供者から話しかけることを禁止されていたから直撃はできなかった。その後も何度か肉薄したが取材はできなかった」