東大生の命奪ったのは「事故」か ラフティング転覆捉えた映像が暴いた事実
みなかみでは、業界で「ハイ・ウォーター」と呼ばれる、3.3メートル以上の水位で数十回の経験がなければ客を乗せないという基準を設けている業者もいる。年間でも有数の水位だった当日、みなかみのラフティング業者でこのコースをとったのは2業者だけ。一つは、乗っていた客が、ラフティング経験が豊富だった。もう一つが、事故を起こした業者だ。
「経験乏しい」インストラクター なぜこのコースを?
ここで、新たな事実がわかった。啓祐さんのボートを操作していた男性インストラクターは、ラフティングのインストラクターを始めて5年。過去2シーズンで「ハイ・ウォーター」の川を2回しか経験していないということだった。 なぜ、水位の高い時期に、転覆の危険があるコースをとったのか。黄色いボート2艇には中学生を含めた家族連れが乗っていた。青いボートは啓祐さんたち、大学生6人。転覆も覚悟してあえて「危険」なコースをとったのではないか。本田さんたちはそう感じていた。「青いボートは転覆するよ」という「予測」とも合致する。
藤原さんは「私だったら、あの(真ん中の)コースはとらなかったな」と話した。 事故報告書に基づいて映像で啓祐さんと思われる人を探すと、転覆した後も水面に顔を出して流れている。なぜ救えなかったのか。この時、岸にいた業者スタッフから「右に泳いで」という声がかかっていた。 「啓祐は指示に従って必死に泳いだと思うんです」 父親は言う。水温は6度。体を動かすのも難しい流れの中、必死でもがいたはずだ。しかし、右岸の岩の間には、倒木が隠れていた。そこに挟まり、動けなくなった。 発見されたとき、啓祐さんは救命具はもちろん、ウェットスーツすらもはぎとられるような形だったという。ラフティング協会の藤原さんによると、当時、200kgを超える圧力が背中にかかっていたとみられる。「なすすべはなかっただろう」
映像を見ていると、「なぜ、これで救助できなかったのか」と思ってしまう。残念ながら、当時ボートに乗っていたインストラクターたちを直接取材することはできなかった。藤原さんは、「後出しジャンケンになってしまうが、転覆を本当に想定した救助態勢がとられていたか、心の準備も万全だったか」と疑問を投げかける。 業者は事故から30分たってようやくほかの業者に救助要請した。警察に通報が入ったのは、事故発生から1時間もたった後だった。