東大生の命奪ったのは「事故」か ラフティング転覆捉えた映像が暴いた事実
私は次に、現場に向かった。みなかみには、「アウトドア連合会」というラフティングなどの業者をとりまとめる団体がある。理事長の石川満好さんに取材をお願いすると、こちらも丁寧に断られた。 みなかみでは事故後、客足が激減。事故の際、警察が業者名を発表せず、みなかみ全体が「危険な場所」とみられてしまっていた。「私はみなかみの業者全体を背負っている。彼らを守らなければならない」
「瞬間撮影した映像がある」 映っていたものは……
遺族に当たれない。周辺取材も難しい。「真相を取材したい」という思いだけが先行して苦しい日が続いた。一方、確証はなかったが、本田さん夫妻には、警察が何らかの判断をすれば、取材に応じてもらえる可能性があった。ラフティング関係者や川の事故の専門家らに当たり、「その日」に備えた。 そんな中、「実は、事故の瞬間を撮影した映像がある」という情報を手にした。周辺情報から検証する報道ができるかもしれない。関係先を手当たり次第に当たった。 ついに、映像に行きついた。2分26秒。まさに「その時」を映していた。
川を見下ろすような画角。川は白いしぶきを上げていた。右側を黄色いボートが少し間をあけて下っていく。それから50秒、カメラは川を映したままだ。50秒後、川の真ん中あたりに青いボートが現れる。 激しい流れに押し戻され、横向きになったと思ったら、ボートがひっくり返る。見ていた自分から思わず「あっ」という声が出た。
まず思ったのは、先に行った2艇が右側のコースをとったのに、事故を起こした青いボートは真ん中の真っ白な流れに突っ込んでいたことだ。 専門家に映像を見てもらった。社団法人「ラフティング協会」の藤原尚雄・専務理事は「黄色いボートが通った右側は『セーフティールート』。真ん中は転覆する可能性がかなり高くなる」と教えてくれた。
次に入手したのは、転覆された業者がつくった「事故報告書」だ。A4用紙7枚。これを渡してくれた人は「私はこれは防げた事故だと思う。亡くなった大学生が気の毒で仕方がない」と声を落とした。 みなかみの川では、20年間、死亡事故がなかった。川は「自由利用」が原則で、法律などの縛りはきわめて緩い。私が「明日からラフティング始めます」といって料金をとって商売をしても、罪に問われることはない。同じく、「アウトドア連合会」が安全管理を縛るのではなく、あくまでも各業者の責任に任されている。 啓祐さんが亡くなった時、水位は3.76メートル。「4メートル」というみなかみの基準内ではあるが、かなりの難易度だ。