東大生の命奪ったのは「事故」か ラフティング転覆捉えた映像が暴いた事実
2人は真っ暗な中、川のそばまで行った。だが、転覆場所もわからない。 「啓祐!啓祐!」 2人は草をかき分けながら、闇の中を探し続けた。 すでに捜索活動は打ち切られていた。暗いうえに川の流れは激しく「危険」と考えられたからだ。「捜索もできないほどの激流に、啓祐はボートで突っ込んだのか」。父親は納得がいかなかった。 翌朝、捜索が再開され、午前6時45分ごろ、啓祐さんは転覆場所からおよそ300メートル下流の右岸付近で見つかった。水中にあった倒木に、体を「くの字」にして挟まったような状態だった。
両親が2日ぶりに息子と対面したのは、病院だった。 「顔も体もあざだらけ。冷たいんですよ。一生懸命さすって温めてあげようと……」 父親は言葉を詰まらせた。 両親は啓祐さんがラフティングに行くことを知らなかった。「知っていたら、止められたのに……」。母親は悔やむ。
「青いボートが転覆する」 状況覆した証言
事故から間を置かずに、両親のもとに連絡があった。「事前に『転覆するよ』って言われたんです」。別のボートに夫婦で乗っていた男性からだった。「出発前と転覆直前、『青いボートが転覆する』って、自分のボートのスタッフに言われた」。 啓祐さんたちが乗っていたのは、青いボート。転覆は予期されていたものだったのか。「その時、自然に起きた事故っていう見方が大きく変わりました」。母親は話す。
このことは地元の上毛新聞が「転覆は意図的だったか」という趣旨で報じた。真相はなんなのか。私の同僚の記者が両親に連絡をとったが、警察の捜査も始まっていた。両親から丁重に「捜査の妨害はしたくないので、遠慮したい」と返答があった。 私が両親に連絡したのは、それから2カ月ほどたった時だった。自分にも子どもがいる。大学生活を楽しみにしていた息子が突然命を奪われたらどんなにつらいか。なぜそんなことが起こったのか。メディアとして報道できることはないか。両親に連絡した。 「申し訳ないですが、事故についてはお話しできません」。事故直後と同じ返答だった。しかし、「啓祐さんがどんなお子さんだったか、そのお話だけでも構いません」とお願いし、お会いすることができた。 自宅にある遺影で、啓祐さんはやわらかい笑顔を浮かべていた。事故前日に友人と撮影したものだという。この1日後に亡くなるなんて、誰が想像できるだろう。