「草刈機まさお」がタイで疾走 中国のドリアン特需で日本企業にも商機
並木道を抜けた先に現れた人家の前で車を止めると、どこかからエンジン音が聞こえてくる。目をやると、赤と黄色のカラフルなバギーのような乗り物が数匹の大きな犬を連れてこちらに向かってくる。軽快にハンドルをさばいて人家の脇に車体を着けて、運転席から降り立った男性は、タイ式の挨拶である合掌と笑顔で記者を迎えてくれた。 【関連画像】タイ産ドリアンの輸出先の大半は中国だ(写真=Feature China / Getty Images ) 2.88ヘクタールの土地で果樹園を営むキティパットさん(51)を訪ねたのは、首都バンコクから南東へ車で3時間半、カンボジアと国境を接するチャンタブリー県だ。フルーツの名産地としてタイ国内で広く知られるチャンタブリー県だが、近年は特にドリアン栽培で盛り上がりを見せている。 日系企業に勤め、千葉県で暮らしたこともあるというキティパットさんは、脱サラして妻方の故郷で果樹園を始めて12年目になるそうだが、ドリアンの価格上昇は目覚ましいという。「果樹園を始めた頃は1キロ18バーツ(約81円)で取引されていたのが、足元では1キロ180バーツにもなっている」 ドリアンの価格上昇に加えて、政府が天然ゴムからの転作を価格維持のために奨励していることもあって、地元では6~7年前からドリアン栽培が目に見えて増えているという。キティパットさんのところでも栽培面積を年々増やしていて、今では面積の6割以上をドリアンに割いている。 ●タイ産ドリアンの97%以上が中国向け 価格上昇をけん引しているのが中国だ。 タイ商務省の統計によれば、生鮮と冷凍を合わせたドリアンの輸出額は2021年に1000億バーツを超え、アユタヤ朝時代以来の伝統的な主要輸出農産物であるコメを上回った。23年には1639億2100万バーツに上っているが、その97%以上が中国向けとなっている。 チャンタブリー県産のドリアンが出荷の最盛期を迎える5~6月には、ボストンバッグに現金を詰めた中国人の仲買人で街はにぎわいを見せるという。国道沿いの看板には中国で使われる簡体字の表記が確かに目立つ。 キティパットさんによれば、「中国向けの輸出量は中国の人口の2%の需要を満たしているにすぎない」のだとか。「10億人を超える潜在需要がある」と話し、ドリアン市場の将来性に期待を寄せる。