古今東西 かしゆか商店【和傘】
日常を少し贅沢にするもの。日本の風土が感じられるもの。そんな手仕事を探して全国を巡り続ける、店主・かしゆか。今回の訪問先は徳島。伝統的な建物が並ぶ “うだつの町” で竹と糸と和紙で手作りする「美馬和傘」と出会いました。 【フォトギャラリーを見る】 雨粒が傘に落ちる音はとても心地よいものですが、その傘が和紙だったら、どんな音がするのでしょう。 「6世紀に中国から伝来した傘は、天蓋と呼ばれる開閉できないもの。平安時代には、身分の高い人に差しかけて、空から降る厄を避けるものとして使われました。それが安土桃山時代、日本独自の部品や構造が発明され、開閉できて雨傘にもなる今の形になったんです」
そう話すのは、徳島県美馬市にある〈美馬市伝統工芸体験館 美来工房〉の住友聡さん。傘の原点は雨避けの道具ではなく、傘の中の人を守る魔除けだったのですね。 「明治維新のころに大阪から傘職人を雇い、近隣地域の竹や和紙で作り始めたのが美馬和傘。最盛期には年間90万本が作られていましたが、時代の変化によって昭和30年代には廃れてしまいます」
わずかに残っていた職人に技術を習い、復活させるべく有志とともに工房を立ち上げた住友さん。竹を割り出すところから、傘の骨作り、組み立て、和紙貼りまで、自分たちの手で行っています。 この日、見せていただいたのは骨の組み立てと和紙貼り。和傘の骨は数十本と数多く、骨と骨の間隔が狭いのが特徴です。それは傘を閉じた時、骨と骨の間の和紙が内側に折り畳まれる構造だから。
「1本の傘の骨は、同じ竹から採るんですよ。そうすれば節が揃い、閉じても美しい傘になるんです」 と住友さん。まずは「ろくろ」という部品の細い溝へ竹骨を1本ずつ差し込みながら、丁寧にしっかりと糸で繋ぎます。細かく地道な作業ですが、この構造によって開閉ができるようになる、知恵のカタマリみたいな工程です。
一方、和紙貼りは、細い骨1本ずつにでんぷん糊をこんもりと乗せ、ぴたっと合うように和紙をのせる一発勝負。完成後は油を塗って繊維に沁み込ませ、天日で乾かすことで防水性を持たせます。和紙は紫外線を防ぐ効果もあるので、日傘に使う人も多いのだとか。 ところで、美馬和傘のもうひとつの魅力は、傘を開くと内側に広がる五色の美しい糸飾りです。