陸上界トップが指導する「足トレ」 跳馬の助走改善を生んだ〝化学反応〟 革新 徳洲会体操クラブの挑戦(9)
徳洲会体操クラブの新たな練習拠点「徳洲会ジムナスティクスアリーナ」(鎌倉市)の1階には直線80メートルの室内走路がある。時計の針が午前9時30分に近づく頃、選手が次々と2階の練習場から走路に下りてきた。 彼らを出迎えたのは陸上界のレジェンドだ。女子走り幅跳び元日本記録保持者で2008年北京五輪代表の井村(旧姓・池田)久美子(43)と、そのコーチを務めていた夫の俊雄(42)。それぞれ挨拶を交わすと、井村俊雄の指導のもと、選手たちの走りのトレーニング、通称「足トレ」が始まった。 ■体幹やリズムに効果 縄跳び、ラダー(はしご状の器具)を使った動き作り、棒を頭上に掲げてのダッシュ、区間ごとにペースを切り替えるウエーブ走-と練習はテンポ良く進んでいく。各メニューには「体幹を締める」「走るリズムの適正化」など狙いがあり、俊雄から選手たちに「『頑張って走ろう』ではなく、動きができればスピードは出るから」とアドバイスが飛んだ。最後は動きの感覚を確認し、約30分の足トレは終了。選手たちは午前の体操練習のため2階に戻っていった。 体操競技は上半身を使う種目が多いが、跳馬と床運動に関しては下半身や走りの強化をおろそかにできない。徳洲会監督の米田功(47)は「跳馬は自分たちが現役だった頃と比べて技のレベルが上がっている。助走の部分がそのままでいいのか」という問題意識を持っており、「専門家から学んだとき、どうなるか興味があった」と、かねて接点があった俊雄に21年末からコーチを依頼することになったのである。 ■体操選手の担当は初 井村夫妻は「イムラアスリートアカデミー」を主宰し、三重県内で子供たちに陸上や運動の指導をしていた。体操選手を担当するのは初めてとあって、俊雄はまず跳馬の助走を研究した。「陸上と同じやり方が正しいわけではないだろう。助走は25メートルしかない。ロイター板にいかにエネルギーを与えられるかが大事」。この発想は、現役時代、俊雄は棒高跳び、久美子が走り幅跳びと「踏み切り」がある種目をしていたことも無縁ではなかった。 「走り」のエッセンスを体操に落とし込むため、俊雄は動画サイトを見て、助走が秀逸だと思う海外選手を徳洲会の選手たちに紹介したことがあった。その海外選手が何者なのか知らなかったが、彼らから、「跳馬の神」と呼ばれる梁鶴善(ヤンハクソン)(韓国)だと教えられた。