ストレスの原因は「仕事」と8割が回答、企業が取れる対策とは
仕事で燃え尽き、職場でストレスや不安などの感情を抱えている? それはあなただけではない。 今年で6回目となるHeadspace(ヘッドスペース)の年次リポート『Workforce State of Mind(労働者の精神状態)』によれば、労働者のうち、過去1年で中程度、高度、もしくは極度のストレスを感じたと答えた人は86%に上ったという。さらに、「極度のストレス」を感じていた人のうち、ストレスのおもな原因は仕事だと回答した人は83%だった。こうした深刻なデータに、雇用主は注意を払うべきだろう。 さらに、メンタルヘルスの問題から生じる経済的なコストは数兆ドルにのぼる。例えば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの最盛期には、うつと不安が、生産性の喪失というかたちでグローバル経済に1兆ドル(約155兆円)の損失をもたらした。このコストは、2030年までに6兆ドル(約930兆円)に増加すると見込まれている。 だが、よいニュースもある──企業はそうした状況を変えられるのだ。 ヘッドスペースのカラン・シング最高人材活用責任者は、ウェルビーイング(心身ともに幸福で満たされていること)と生産性は、一方が増えれば他方が減るゼロサムゲームではないと確信していると話す。「『どちらか』ではなく、『どちらも』達成することができる」とシングは言う。 「我々はいつも、物事を『どちらか』として考えるが、どちらも同時に真ということもあり得る──矛盾しあう考え方であってもそうだ。だからこそ、雇用主がストレスの源であるとしても(当社のデータではそれがはっきり示されている)、他方で、つながりやコミュニティ、帰属意識、目的の源となることもできる」
企業がウェルビーイングに投資しないのはなぜか
従業員同士の会話はしばしば、職場で何かがうまくいっていないことを示す最初の兆候になる。ストレスや燃え尽きをめぐって交わされる、「廊下での会話」とも表現されるそうした会話は、炭鉱のカナリアのようなものだ。「(ウェルビーイングをめぐる)会話の大部分は、舞台裏でこっそり交わされる。けれども、役員会議室のような公の場で話し合われる必要があるのだ」とシングは言う。 ■企業がウェルビーイングに投資しないのはなぜか 企業幹部のなかには、従業員のウェルビーイングへの投資について、ひどい思い違いをしている者もいる。シングによればその原因は、時代遅れの経営モデルに固執していることにあるという。「メンタルモデルが違う。人について考えるときに、取引としてとらえるか、ビジネスの基礎としてとらえるか、ということだ」 ヘッドスペースの調査では、企業が従業員のメンタルヘルスに関するリソースに投資することで、医療費が15%削減されることが明らかになっている。また、瞑想アプリを日常的に使用している人では、使用開始から30日後に、ストレスが32%減少することもわかった。 とはいえ、そうした説得力のあるデータにもかかわらず、いまだに多くの組織では、メンタルヘルスが職場における優先事項になっていない。 「現在では、メンタルヘルス関連リソースに投資するか否かで、投資利益率(ROI)にはっきりとした違いが出ることが、多くの良質なデータによって示されている」とシングは話す。「質的な利点があることについては、誰もが概念としては認識していても、必ずしもそれで投資という決断に至るわけではなかった。いまでは、そうした質的な利点だけでなく、従業員一人につき数千ドルを削減できることも理解され始めている」 ■「職場でのウェルビーイング」を意思決定者に理解させるためには 「ウェルビーイングは、ずっと間違った受けとられ方をしてきた」とシングは言う。「話の一部だけを切りとって、そこから経済的な議論をしようとする、という感じだった。場合によっては、企業のなかに、人やプログラムへの投資の有無による具体的な金銭面の影響を理解していない人たちもいるかもしれない。ウェルビーイングという話をすることが、かえって悪い方向になるケースもあると私は思っている。ウェルビーイングと生産性の関連が証明されていたとしても、それを軽視してしまう場合があるのだ」