中東最強・イスラエル軍の根幹「徴兵制」が揺らいでいる“意外な理由”とは
経済への多大な影響
問題はそれだけではない。軍事費や予備役の動員数が拡大することになれば、イスラエル経済には大きな負担となる。これは歴史的に見れば、まさしく1973年の第4次中東戦争(イスラエルでの呼称は「ヨム・キプール戦争」)の後と同じ状況だ。イスラエルは同戦争でも、エジプトからの奇襲攻撃で甚大な被害を受け、戦後、軍の拡大・増強に着手。その結果、経済の悪化を招いたのだ。 エルラン氏は、「今後、軍備が増強されるのは明らかだが、予算は莫大なものになり、国民経済にも大きな影響を与える。『失われた10年』と呼ばれるヨム・キプール戦争後と同じような経済状況が発生するかもしれない」と経済への影響を懸念する。 ロシアのウクライナ侵攻を受け、欧州で徴兵制の復活に関する議論が行われ、日本でも中国の覇権主義的な姿勢により、一部で徴兵制復活を求める声がくすぶる。しかし、「中東最強」と謳われてきたイスラエルの徴兵制ですら、大きな過渡期を迎えている。徴兵制の議論は社会や政治とも結びつく極めて複雑な問題なのである。
曽我太一(そがたいち) ジャーナリスト。エルサレム在住。東京外国語大学大学院修了後、NHK入局。北海道勤務後、国際部で移民・難民政策、欧州情勢などを担当し、2020年からエルサレム支局長として和平問題やテック業界を取材。ロシア・ウクライナ戦争では現地入り。その後退職しフリーランスに。 「週刊新潮」2024年6月27日号 掲載
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