赤が鮮やかな高齢者用歩行器“らしくない”見た目で人気に、中小企業のひと工夫が拡大する介護ロボ市場
~ 中小企業の今とこれからを描く ~ 日本政策金融公庫総合研究所では、中小企業の今とこれからの姿をさまざまな角度から追うことで、社会の課題解決の手がかりを得ようとしています。最新の調査結果を、当研究所の研究員が交代で紹介していきます。今回は、介護ロボットを製造する中小企業をテーマにした連載の2回目です。中小企業の取り組み事例から、介護ロボットの普及のポイントを考えます。 【写真】グッドデザイン賞を受賞した真っ赤な高齢者用歩行器 (長沼 大海:日本政策金融公庫総合研究所 研究員) >>>#1 広まらぬ介護ロボ、政府目標の達成率5%…「ゲームソフト」や「歩行アシスト」で普及を目指す中小企業 ■ 介護ロボットの普及に必要な三つのポイント 高齢化に伴って注目される介護ロボットには、高齢者の個人差、製品に対する否定的な認識、介護機器の特殊性といった普及に向けた課題があることは、前回の記事で紹介したとおりである。 今回は、介護ロボットを製造する中小企業の事例調査をもとに、介護ロボットの普及のポイントとして、「高齢者の個人差に合わせる」「肯定的な認識を醸成する」「オープンイノベーションを実践する」の三つを挙げたい。 長沼 大海(ながぬま・ひろうみ)日本政策金融公庫総合研究所研究員。2012年日本政策金融公庫入庫。四日市支店を経て、2016年4月より現職。主な著書は『21世紀を拓く新規開業企業―パネルデータが映す経済ショックとダイバーシティ―』(共著、勁草書房)。日本公庫・研究ワークショップ|日本政策金融公庫 で学識経験者と行ったディスカッション等を公開中。
■ あらゆる健康状態の高齢者に対応したゲームソフト ポイント(1):高齢者の個人差に合わせる 一つ目のポイントは、高齢者の個人差に合わせることである。 高齢者の健康状態や経済状況、経験、価値観は、一人ひとり異なる。その個人差にどれだけ対応できるかがポイントになる。 ただし、個別の希望に合わせたオーダーメードの製品や、多様なニーズを網羅するような複数の機能をもった製品では価格が高くなってしまう。高額すぎて利用者の手元に届かないという事態は避けたい。 事例調査では、製品の目的を明確にする、その目的に合わせてオプションを用意するといった工夫によって、自社の製品を高齢者の個人差にうまく合わせていることがわかった。 神奈川県平塚市のTANOTECH株式会社は、モーショントレーニングシステム「TANO」を製造している。 TANOは、ボール投げや体操など高齢者の運動機能の維持を目的としたゲームを搭載したゲーム機の一種だ。通所介護施設のレクリエーションなどで利用されている介護ロボットである。 TANOは販売当初から約50種類のゲームソフトを搭載していたが、思うように販売数が伸びなかった。例えば、立って行うゲームが中心で車いすに座っている人が参加できないなど、通所介護施設を利用する高齢者の個人差に対応できていなかったからだ。 高齢者の誰もが楽しんで運動するというTANOの目的が十分に果たせていなかった。 そこでTANOTECHは、ゲームの内容を極力シンプルにして開発コストを抑える一方、健康状態に応じて皆が楽しめるように座ったままプレーできるゲームなどを増やした。現在、TANOに搭載されたゲームソフトは300種類を超えている。 利用できる高齢者が増えたことでTANOを購入したいという通所介護施設が増加している。販売価格は約120万円と家庭用のゲーム機に比べて安くはないものの、2023年には約200台を販売したそうだ。 製品の目的や機能を明確にしたうえで、利用者に寄り添った選択肢を用意することで、製品を普及させた好例である。