いま、「社会は起業家を求めている」...世界で活躍する4人の天才から読み解くアントレプレナーが持つ「真の価値」
近年注目が集まっているアントレプレナーシップ。「起業家精神」と訳され、高い創造意欲とリスクを恐れぬ姿勢を特徴とするこの考え方は、起業を志す人々のみならず、刻一刻と変化する現代社会を生きるすべてのビジネスパーソンにとって有益な道標である。 【漫画】頑張っても結果が出ない…「仕事のできない残念な人」が陥るNG習慣 本連載では、米国の起業家教育ナンバーワン大学で現在も教鞭をとる著者が思考と経験を綴った『バブソン大学で教えている世界一のアントレプレナーシップ』(山川恭弘著)より抜粋して、ビジネスパーソンに”必携”の思考法をお届けする。 『バブソン大学で教えている世界一のアントレプレナーシップ』連載第4回 『最新の経営理論は結局「古典」...アメリカの大学講師が「ビジネスで迷いが生じたら古典に還れ」と語るワケ』より続く
「アントレプレナー」の真の意味
起業家、アントレプレナーという言葉はみなさんご存じでしょう。これはただ「会社を起こす人」という意味ではありません。私はこれを「事業を通して、社会を変えていく人」だと考えています。 経済産業省の調べによると、2022年度に日本で「起業した会社の数」は、約14万社に上ります。しかしそのほとんどは、独立起業、引退後の起業などであり、起業理由も、「自分の裁量で仕事がしたい」「年齢に関係なく働きたい」「仕事を通じて自己実現したい」といった、個人に関わる理由がほとんどです。人生100年時代と言われる今、働き方の多様性が求められる今、とても重要なことです。 しかしその中には「アイデアを事業化したい」「社会に貢献したい」という回答もあります。これこそ、私が考える「アントレプレナー」です。 世界的なコンサルティング企業であるアーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドが毎年、世界各地で優れたアントレプレナーを顕彰・支援しています。
世界のアントレプレナーたち
韓国のJung Jin seo氏は、40歳過ぎのいわゆる働き盛りの年齢で、それまで働いていた自動車業界での職を失いました。ところが彼は、まったく畑違いの製薬業界で起業します。なかなか進まない「がん」をはじめとするさまざまな疾病の治療に関して「次世代の医療モデルを完成させる」と強い意志を持って取り組み、起業した会社をセルトリオングループとして大きく成長させ、乳がん、関節リウマチ、インフルエンザなどの安価な治療薬の供給を推進し、抗ウイルス薬の分野で革新をもたらしています。 クロアチアのMate Rimac氏は、自動車好きが高じて、21歳で電気自動車の会社を起業。起業から2年で世界初の完全自動ハイパーカーを開発しています。自らの自動車についての知識とほかのメーカーへの取材で得られた知識を活用し、最先端の自動車開発にとどまらず、持続可能な社会をつくり上げる企業となり、世界的な自動車メーカーに、高性能バッテリー、電気自動車部品を供給するまでに成長しています。 アメリカ、デトロイトでWalker-Miller Energy Services社を経営するCarla Walker-Miller氏は、化石燃料から脱却し環境にやさしいエネルギーへの移行を進める事業を展開しています。20世紀に栄えた自動車の街・デトロイトは、一方でガソリンを大量消費する社会の一つの象徴だったかもしれません。その街から、持続可能なエネルギーを推進する企業が生まれていることは象徴的です。アフリカ系アメリカ人女性であるCarla Walker-Miller氏は、労働力の多様化にも積極的に取り組んでおり、そういった視点からも、社会を変えていく強い意志が見て取れます。 わずかな例ですが、ただ会社を起こすのではない、「アントレプレナー」とは何か。それがこの3人から読み取れるのではないでしょうか。彼らが発しているのは社会を変えていこうという意思の力です。人生の羅針盤、起業「道」としてのアントレプレナーシップです。