「東京・銀メダリストの梶原悠未はもう世界の梶原」“ロスの超特急”坂本勉が女子代表に期待寄せる/パリ五輪・自転車
躍進止まらぬ中距離種目だが、まだ世界と壁を感じている
ーーそして、女子チームパシュートには女子オムニアムに出場する梶原選手に加えて、池田選手、内野選手、垣田選手も出場。今年のアジア選手権では日本新記録どころか、アジア新記録も更新して金メダルを獲得しています。ネイションズカップ第2戦でも銅メダルを獲得するなど、大会を重ねるごとにチームとしての総合力が上がってきた印象を受けます。 (坂本) 発展していますね。ただ、女子チームパシュートですが、イギリスやドイツといった世界の強豪国が揃ったネイションズカップ第3戦では8位に敗れています。内野と垣田で臨む女子マディソンもアジア選手権とネイションズカップ第2戦では金メダルを獲得しているんですが。女子中距離競技に関しては、梶原以外の選手にはまだ“世界との壁”を感じています。パリ五輪を前にした評価をするのなら、まずは入賞を目指し、さらなる躍進のきっかけとなってもらいたい、というところです。
日本代表史上最強の布陣、その背景にある「強さの理由」
ーーそれにしても、男子・女子共に史上最強の布陣とも言える選手たちです。日本代表コーチ、そしてリオ五輪では短距離ヘッドコーチとして現場を見ていた坂本さんの見解では「メダル圏内に位置するほどに選手たちが強くなった理由」はどこにあると思いますか? (坂本) まずは選手が自転車競技だけに取り組めるようになったのが非常に大きいと思います。以前は強化選手に選ばれても、競輪のレースに出場しなければいけませんでした。今では大会だけでなく、練習にも専念することができる環境があります。そこには伊豆ベロドロームのような充実したトレーニング施設の存在も大きかったと見ています。 ーー以前は強化選手になっても競輪に比重を置かざるを得ない状況だったのですね。自転車競技の大会に向けての調整も難しかったことでしょう。 (坂本) 今はまさに365日を練習に充てられますが、その時代は強化選手とはいえ、月に5日ほどの合宿でしたし、そもそもベロドロームに集まってもらうのがやっとでした。そこで優秀な成績を残した選手たちを代表に選んでいくのですが、いくら競輪を走っていても、競技は別物です。日本よりもはるかに長い時間を自転車競技の練習に充てている世界との差はみるみるうちに開いていきました。 ーー転機となったのはいつからなのですか? (坂本) 東京オリンピックという目標ができてからになります。リオオリンピックで自転車競技に出場した日本代表選手はメダルゼロという結果に終わりましたが、次に控えた東京オリンピックではメダル奪取のために、これまで以上に強化に力を入れていく流れがありました。それが転機になったポイントです。 ーー2016年、ナショナルチームのヘッドコーチにブノア・ベトゥ氏が就任(現在はテクニカル・ディレクター)していますが、それ以降の国際大会における選手たちの活躍が目覚ましくなっていきました。 (坂本) ブノア・ベトゥ氏だけでなく、多くの外国人スタッフを呼び寄せたことで、世界レベルの練習や、研究に加えて分析といった取り組みも行えるようになりました。また、選手たちも強化費をもらえることで、競輪を走らなくとも練習に打ち込めるようになりました。それだけではありません。大会で使用するフレームに関してもブリヂストンが制作を行ってくれただけでなく、様々な企業が日本代表のためにサポートをしてくれました。 ーーなるほど。フレームと言えば今回パリ五輪で使われるトラックバイクTCM-2がお披露目されましたね。 (坂本) トラックバイクTCM-2は、東京オリンピックよりも、さらに技術革新が図られたバイクとなっています。その価格が税別で1985万円というのも驚きですが、それも東京オリンピックでメダル奪取が見えてきたからこそ、東レを中心とした企業側も一体となって、“いいマシンを作りたい”との思いが生まれてきたのでしょう。 ーー国産バイクで大会に臨む選手たちは、まさに日本の技術力も背負った走りになるのですね。 (坂本) はい。そして選手たちは、ファンの皆さんからの応援も背負って大会に臨むこととなります。2015年から2021年まで、「国際自転車トラック競技支援競輪」が開催されましたが、その売り上げの一部が強化支援に回ったことで、日本代表が強くなったとも言えますし、そういった意味では競輪における皆さんの車券投票が選手を強くしたとも言えるでしょう。 ーーもしもメダルを獲得したなら、坂本さんのように『ロスの超特急』のような代名詞も付きそうです。 (坂本) どんな形であれ、注目されるのは良いことだと思います(笑)。男子も女子もメダル獲得の現実感は充分にあると思うので、これからはじまるパリ五輪での戦いは見逃せませんし、みなさんも“その瞬間”を見逃さないようにしてください。それでは応援していきましょう。