新・領域戦―サイバー戦どう備える(1)国益の摩擦反映 ネットに生じた境界
世界各地でサイバー犯罪、サイバーテロが、頻繁にニュースで取り上げられています。個人・企業だけでなく、国の安全保障として、サイバーセキュリティーに対する取り組みの重要性が考えられるようになりましたが、私たちはどこまでこの問題を理解しているでしょうか。 そこで、サイバー安全保障を研究している元陸上自衛隊通信学校長、元陸将補の田中達浩氏が、サイバー戦とは何か、どのような脅威があるのか、防衛や対策のポイントは、などをテーマに、わかりやすく説明します。 ----------
サイバーセキュリティの重要性が叫ばれて久しくなります。日本では、防衛産業の重工メーカーに対して行われたサイバー攻撃が2011年9月に発覚してから、その重要性が一挙に認識されてきたように思います。それから5年、国内外で多くの施策が実施されてきました。その主要なものは、2014年の「サイバーセキュリティ基本法」の策定及び「サイバーセキュリティ戦略本部」の創設であり、2015年には「サイバーセキュリティ戦略」を策定しました。 その目標は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックが安全に、かつ成功裏に行われることです。しかし、守る側の打つ手のスピード感に比し、悪意ある攻撃の進化のスピードが勝っているようにも見えます。サイバー領域における戦いは、正に「目に見えない」変化と進化で戦いを継続しているのです。 また、地政学的な安全保障環境もサイバー領域の戦いに大きな影響を与えます。サイバー犯罪、サイバーテロにとどまらないサイバー戦争のレベルまで考慮するサイバー安全保障の視点が重要となっています。 安全保障体制としては、サイバーセキュリティ体制の強化に先んじた2013年に「国家安全保障会議(NSC)」創設及び「国家安全保障戦略」策定、引き続き2015年に新しい「日米防衛ガイドライン」、さらに、いわゆる「平和安保法制」が策定されて急速に国家としての体裁を整えてきました。