PGAツアーの「格差」をどう見る?【舩越園子コラム】
2024年のPGAツアーは全47試合。1月から8月までの36試合は「フェデックスカップ」と呼ばれ、プレーオフ・シリーズ3試合をもって、すでに終了。現在は来季の出場権を競い合う「フェデックスカップ・フォール」が始まっている。 松山英樹がPO初戦Vで10勝目【写真】 今季のフェデックスカップを振り返ったとき、すぐに思い出されるのは、どの大会のどんな勝者のことだろうか。 日本のゴルフファンは、2月「ジェネシス招待」を制した松山英樹の勝利を、まず思い浮かべることだろう。米国のファンは、3月「アーノルド・パーマー招待」を皮切りに、第5のメジャー「プレーヤーズ選手権」を制し、4月「マスターズ」で2度目の制覇を果たし、続く「RBCヘリテージ」でも勝利したスコッティ・シェフラーの快進撃の始まりを、あらためて思い出すに違いない。 5月「ウェルズ・ファーゴ選手権」で勝利したのはローリー・マキロイ。「全米プロ」でメジャー初優勝を挙げたのはザンダー・シェウフェレだった。そして、シェフラーが6月「メモリアル・トーナメント」で今季5勝目を挙げ、ブライソン・デシャンボーが「全米オープン」を制して大会2勝目を挙げたとき、世界中のゴルフファンが興奮し、狂喜した。 シェフラーはさらに「トラベラーズ選手権」で今季6勝目を挙げ、7月にはシャウフェレが「全英オープン」で勝利してメジャー2勝目をマークした。 8月「パリ五輪」をはさみ、PGAツアーはプレーオフ3試合へ突入。第1戦「フェデックス・セントジュード選手権」を制した松山。第2戦「BMW選手権」で突然、気を吐き優勝したキーガン・ブラッドリー。そして最終戦「ツアー選手権」で見事に勝利して年間王者に輝いたシェフラー。いずれも見事なゴルフであり、素晴らしいチャンピオンたちだった。 だが、印象に残っているのは、メジャー4大会と第5のメジャー、高額賞金のシグネチャー・イベント8試合、そしてプレーオフ3試合の合計16試合ばかりで、それ以外のレギュラー大会となると、勝者の名前をすらすらと挙げられるゴルフファンは決して多くはないのではないだろうか。 今季に松山が挙げた年間2勝、シャウフェレが挙げたメジャー2勝、シェフラーが挙げたメジャー1勝を含む年間7勝は、いずれも破格の賞金が用意されたビッグ大会ばかりだが、それは、彼らがそうしたビッグ大会を狙い撃ちして勝ったように見えて、実際は、そういうビッグ大会のみしか出ておらず、「その中で複数回、優勝した」と表現したほうが適切である。 PGAツアーの出場義務試合数が年間18試合だったかつての時代は、メジャー4大会が年間4度の「ピークの時」で、それ以外の40数試合には、それぞれの選手が自分の好みや判断で出場していた。そのため、各大会の顔ぶれにはバラつきはあったが、大物選手もいれば、無名の新人も入り混じり、ゴルフファンは毎週のように多彩なフィールドを楽しむことができた。 しかし、LIVゴルフ対策としてシグネチャー・イベントが創設された今は、高額賞金の16試合に出るだけで義務試合数の15試合をすでにクリアしてしまうため、トッププレーヤーは高額賞金の大会のみしか出なくなり、それ以外のレギュラー大会は、賞金も選手たちの顔ぶれも相対的に「少ない」、「寂しい」と感じられてしまう。 言い換えると、高額賞金の16試合とレギュラー大会との格差がいろいろな面で広がっているわけで、そうした格差は「アスリートの世界なら、あって当然」、「スターの象徴」と見ることもできなくはない。 だが、そのギャップを感じ取ったスポンサーは「コスパの悪さ」を理由に降板を検討。ゴルフファンも「メジャーやシグネチャー・イベントだけ見れば十分」と思い始め、レギュラー大会は一層寂しくなりつつある。今季のレギュラー大会のTV視聴率は低下の一途。人気低迷を食い止めることは、PGAツアーにとって喫緊の課題に違いない。 すでに格差がありすぎるほどあるのだから、いっそのこと、高額賞金の16試合をトップ中のトップツアーとしてピラミッドの頂点に置き、その下に「その他のレギュラー大会」、その下に下部のコーン・フェリーツアーという具合に、3層構造に変えてしまい、それぞれの構造の魅力を訴求するといった変革も一考に値するのではないだろうか。 ただただ、賞金やボーナスを高額化させるだけではなく、ファンが親しみやすいPGAツアーを作り出すことを何より優先していただきたい。 文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)