なぜ「袴田事件」のような冤罪はつくられ続けるのか? "冤罪弁護士"の著者がその理由を解き明かす!
1980年に最高裁で死刑判決が確定してから実に44年を経て、再審で無罪が確定した通称「袴田事件」。司法の誤りによって袴田巌さんという無実の人の人生を奪い、長期にわたって死の恐怖にさらし続けたこの事件は、死刑判決の冤罪という絶対にあってはならない過ちの恐ろしさと、それを生んだ日本の司法制度の問題を浮き彫りにした。 【書影】『冤罪 なぜ人は間違えるのか』インターナショナル新書 「冤罪」はなぜつくられ続けるのか。それを防ぐ方法はないのか。冤罪事件に取り組む若き弁護士が、冤罪を生み出すメカニズムを解き明かし、過ちから学ぶ道を示すのが西愛礼氏の『冤罪 なぜ人は間違えるのか』だ。 * * * ――元裁判官でもある西さんが冤罪という問題に向き合おうと思われたきっかけは? 西 直接のきっかけは弁護士として「プレサンス元社長冤罪事件」という事件を担当したことでした。 2019年12月、大阪に本社を置く東証1部上場(当時)の不動産会社「プレサンスコーポレーション」の創業社長(当時)である山岸忍さんが、ある学校法人の移転に伴う用地買収に関して「業務上横領」の共犯として大阪地検特捜部に逮捕、起訴され、248日間にもわたる身体拘束を受けた事件です。 しかし、裁判の過程で検察側の無理な「見立て」や、それに合わせた強引な取り調べの事実が次々と明らかになり、2021年10月に山岸さんの無罪が確定しています。 それ以前、私がまだ駆け出しの裁判官として刑事事件を担当していた頃から、無罪判決が出たときに冤罪を生んだ原因を検証する制度が存在しないことには疑問を感じていました。 しかし、実際に弁護士として山岸さんの冤罪事件に関わり、なんの落ち度もない人が逮捕され、自由を奪われ、犯人扱いされて名誉も汚され、自分が育ててきた会社までも失ってしまう......という冤罪事件の悲惨さ、理不尽さを改めて実感しました。 二度とこうした事件を起こしてはいけないという思いから、冤罪の救済や冤罪の研究に取り組むようになったのです。 ――本書を読むと、そのプレサンス元社長冤罪事件でも、冤罪を生んだ検察側から謝罪や反省の言葉はなく、自分たちの過ちを認めてすらいないように感じます。正当な理由もなく、人の財産や権利を奪う行為は、普通「犯罪」と呼ばれますよね? 西 そうですね。そこで、取り調べの録画などから、大阪地検特捜部の取り調べには机を叩く、怒鳴るといった威圧的、脅迫的な行為があったとして、担当の検察官(当時)を刑事告発しました。しかし、これを大阪地検が不起訴としたため、改めて刑事裁判で扱うよう裁判所に付審判請求を申し立て、これが認められました。 ちなみに、同じ大阪地検特捜部が起こした冤罪事件として知られる「郵便不正・厚生労働省元局長冤罪事件」(村木事件)では、証拠のフロッピーディスクを改竄した検察官と、それをかばった上司がそれぞれ証拠隠滅と犯人隠避で有罪判決を受けていますが、検察官の不適切な取り調べが「刑事事件」として扱われるのはこれが初めてです。