河合優実らキャスト陣が素晴らしい ラストまで見たい秀作『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』
■『勝手にふるえてろ』の大九明子監督が生み出す世界
『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(以下『かぞかぞ』)は、2023年にNHK-BSにて放送された河合優実主演の家族ドラマ。ドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)、映画『少女は卒業しない』『あんのこと』、劇場アニメ『ルックバック』などで支持される河合が、連続ドラマ初主演を務めた作品だ。現在、地上波のNHK総合にて放送されており、全10話のうち、第3話までを放送。ラストまで一緒に走りたい秀作である。 【写真】河合優実のタンクトップ姿 『かぞかぞ』の原作は、作家・岸田奈美さんによる同名の人気エッセイ。中学生のときに、父を心筋梗塞で亡くし、高校生のときには母が大動脈解離の後遺症で車いすユーザーに。弟はダウン症で、祖母は日に日にもの忘れが増えていく。過酷に思える日々を、笑いを交えて身近に感じさせ、するりと読ませるパワーに満ちた作品だ。 映画『勝手にふるえてろ』『私をくいとめて』の大九明子監督の手によるドラマは、原作のエッセンスを抽出しながら、“ほぼ”トゥルーストーリーと銘打ち、脚色を交えて進んでいく。 オープニング。全身黒いコーディネイトでビシッと決めた、七実(河合優実)、草太(吉田葵)、父・耕助(錦戸亮)、祖母・芳子(美保純)が、母・ひとみ(坂井真紀)の運転する赤のボルボに乗り込み、七実が、「“ほぼ”トゥルーストーリー」と宣言。岸本一家の物語が幕を開けた。 ドラマの主人公・七実の父も彼女が中学生のときに急死したが、錦戸演じる耕助は、その後もたびたび姿を現す。家族を見つめる父として、また草太だけに見える、ともに在る存在として。フィクションならではの存在としては、福地桃子演じるマルチこと友人の環も、ドラマオリジナルのキャラクター。彼女とのやりとりによって、トゥルーストーリーから産み落とされた七実の性格や感情がこちらに伝わってくる。 第1話では家族の紹介もそこそこに、母が倒れたが、冒頭の場面はそこから時を経た彼らの姿。家族の黒コーデは耕助の墓参りのためであり、赤のボルボを運転していたのは、車いすの母だった。「家族の死、障がい、不治の病。どれかひとつでもあれば、どこぞの映画監督が世界を泣かせてくれそうなもの。それ全部、うちの家に起きてますけど」と七実は平熱で口にする。重いテーマを扱っている本作だが、原作がエピソードごとに、軽やかに締めるように、ドラマも毎話、不思議な力で少しだけ気持ちを軽くして次へとつなげていく。