レトロなドット絵アートからサイケデリックな世界観まで 今年のTGSを彩ったインディーゲームたち
歴代2位の記録となる27万4739人もの動員を達成した『東京ゲームショウ2024』(9月21日~24日)。その目玉は、やはり『モンスターハンターワイルズ』や『龍が如く8外伝 Pirates in Hawaii』といった大作タイトルの試遊となっているわけだが、日本を中心に世界中のインディーゲームが集まる場としても十分に見どころのあるイベントだ。日本を代表するインディー・パブリッシャーである架け橋ゲームズやPLAYISMがブースを出展しているのはもちろん、「Selected Indie 80」に選出された作品を開発者自らが展示していたり、世界各国のクリエイターが国ごとにブースを設けて集結していたりと、そのボリュームは4日間あっても回り切ることができないほど。本稿では、筆者が実際に試遊した中から、特に印象深い5つの作品を紹介したいと思う。少しでも気になる作品があれば、ぜひ、Steamのウィッシュリストに追加するなどのサポートをしてみてほしい。 【画像】ゲームボーイでプレイ可能なドット絵アドベンチャー『マロンの日』スクリーンショット ■Neva(10月16日発売予定) 開発:Nomada Studio/パブリッシャー:Devolver Digital まるで水彩画のような美しいビジュアルと、言葉を使わずに物語を巧みに描くストーリーテリング、バルセロナの音楽グループであるBerlinsistが鳴らす優雅なサウンドトラックによって圧倒的な支持を獲得したインディーゲームの傑作『GRIS』。同作を手がけたNomada Studioによる、約6年ぶりとなる新作が『Neva』である。前作では一人の少女が辿る精神的な成長の旅がテーマとなっていたが、今作では闇の力によるトラウマを抱えたAlbaという女性と、彼女とともに生きる好奇心旺盛な子オオカミのNevaが、冒険を通してともに絆を築き上げていく物語が描かれている。 実際に20分ほどの試遊体験を経て感じられたのは、『GRIS』の魅力となっていたビジュアル、アニメーション、音楽などの美しさにさらに磨きがかかっているということで、それだけでファンであればきっと満足することができるだろう。だが、それ以上に印象的だったのは、ゲームの中心が個人から“一人と一匹”になったことで、ゲーム全体のプレイフィールに大きな変化が生まれていることだ。特に、好奇心の赴くまま遠くに走っていったり、闇に怯えて先へ進めなくなったりするNevaの姿は、まさしく本能的で、プレイヤーは追いかけたり、障害となるものを排除したり、寄り添って癒やしてあげたりと、さまざまな形でNevaとともに生きている感覚を育んでいくことになる。こうしたつくりによって、前作での特徴でもあった「言葉を使わない」という点がより効果を発揮しており、ゲーム内に明確な指示がないことも相まって、プレイヤーはNevaの様子を見ながら「何をしてほしいんだろう?」と考える必要に迫られる。その過程の一つひとつが丁寧に描かれているため、わずかな時間の体験にも関わらず、試遊を終えるころには、トレーラーで見たときよりもNevaのことがずっと好きになっていた。 ■Skate Story(2024年発売予定) 開発:Sam Eng/パブリッシャー:Devolver Digital スケートボードといえば言わずと知れたクールなスポーツだが、一方で、一枚のボードと一体となって、黙々と地面や障害物と対峙し続けるというのは、極めてスピリチュアル的な行為でもある。これまでにリリースされてきた『トニー・ホーク プロスケーター』や『オリオリワールド』、『Skate』といったスケートボードゲームの名作が、単純にゲームとして面白いのと同時に、より深いレベルでプレイヤーの印象に残り続けているのは、そうした要因も含まれているに違いない(『オリオリワールド』はその要素をポップかつ大胆にゲーム全体で描いていた)。それは、「ボロボロの初心者から熟練のスケーターへと成長し、悪魔を滅ぼして、虐げられた魂たちを救い出せ」という説明文からも分かるとおり、『Skate Story』にも強く投影されている。 CHANEL Culture Fund(シャネル文化基金)が文化芸術の各分野で国際的に活躍するクリエイターを表彰・支援する「CHANEL Next Prize」にも選出されたSam Engが中心となって作り上げたのは、悪魔と契約して全身が脆いガラスへと変貌した魔物が、月を奪って魂を救出するために冥界をスケートボードで疾走するというあまりにも独特な物語だ。実際に試遊をしてみると、ざらつきのあるアナログなアートスタイルと、キラキラとしたインディー・ロックのサウンドトラック、しっかりとした手応えのあるスケートボードのアクションが一体となったメランコリックな世界観に瞬く間に引き込まれていく。それはまさにスケートボードの持つスピリチュアル性を凝縮したような体験で、宗教と哲学の要素をかなり取り入れている登場人物からも、その片鱗を感じ取ることができる。スケートボードゲームとして極めてユニークな作品なのは間違いないが、同時に、どこかその本質を捉えているようにも思える印象深い作品だ。 ■CAIRN(2025年発売予定) 開発・パブリッシャー:The Game Bakers スタイリッシュなハイスピードアクションの傑作『Furi』(2016年)の開発後に、2人の恋人の逃避行を描いたファンタジーアクションRPG『Haven』(2020年)を発表してクリエイティブの幅広さを知らしめたThe Game Bakers。そんな同社の最新作は、やはりこれまでの作品とはまったく異なるクライミング・アクションゲームである。試遊版では、歩行時のフレームレートがかなり不安定で開発真っ只中という印象があるものの、ゲームプレイにおける最も重要なポイントであるクライミング・パートを実際に味わえば、本作がThe Game Bakersの新たな傑作になると確信できるのは間違いない。 『CAIRN』の基本的な操作は、各手足を一つずつスティック操作でどこか引っかかりそうなところに動かして、それを繰り返しながら少しずつ崖の上まで登っていくというシンプルで直感的なもの。キャラクターにはスタミナのようなものが存在しており、手足の位置が悪かったり、無理な姿勢を取ってしまうと、どんどん疲労が積もっていって、やがて落下してしまう。崖のデザインは一見すると「どうやって登るんだ」と思わされながらも、試行錯誤を重ねていくと適切なルートが見えてくるという絶妙なバランスに仕上がっており、スタミナ切れにヒヤヒヤしながらも、一歩ずつ慎重にクライミングを進め、ついに登りきったときの達成感は、ほかのゲームではなかなか味わうことのできない、ユニークで圧倒的なものだ。ゲームの説明文には「それぞれの崖は、まるでボス戦のように感じられるだろう」と記載されているが、まさに、初見で絶望しながらも突破口を見出してついに踏破したときの喜びは、ある意味ではソウルライクの魅力にも通ずるところがあるようにも感じられる。見た目の印象とは裏腹に、本作はきっと、想像以上に多くのプレイヤーを魅了するのではないだろうか。 ■マロンの日(2024年発売予定) 開発:npckc/パブリッシャー:RAWRLAB Games、npckc たくさんのAAA作品が並ぶ東京ゲームショウの会場を歩いていると、懐かしいスーパーファミコンの実機が目に留まる。『A YEAR OF SPRINGS』や『A PET SHOP AFTER DARK』などのキュートなアドベンチャーゲームで知られる個人クリエイター・npckcの最新作は、ゲームボーイの時代を彷彿とさせる可愛らしいドット絵のアートスタイルが印象的な、ほのぼのとしたアドベンチャー作品だ。というか、実際にゲームボーイで動くように開発されており、今回の出展でも「スーパーゲームボーイ」(スーパーファミコンでゲームボーイのソフトを動かすことができる周辺機器)に試遊版のカセットをセットして展示されているという徹底ぶりである。 スーパーファミコンのコントローラーを握るのはかなり久しぶりの体験だったが、画面いっぱいに広がるレトロで温かみを感じる世界観(チップチューンのサウンドトラックも素晴らしい!)に触れているうちに、無邪気にゲームで遊んでいたあのころの感覚が蘇ってきて、すっかり夢中になってしまった。今回の試遊範囲は(ゲームの目的である)町のお祭りを救うために、町の住人と交流して、魚釣りをするという約5分~10分ほどのコンパクトな内容となっていたが、世界観はもちろん、npckcらしいちょっと捻りの効いたテキストも楽しくて、もっと長くこの世界に浸っていたいと感じられる体験を味わうことができた。本作については、Steamで体験版も配信されているため、気になった方は是非遊んでみてほしい。 ■Dome-King Cabbage(発売日未定) 開発:Cobysoft Co./パブリッシャー:HYPER REAL これまでさまざまな試遊体験をしてきたが、スタッフの方に「これで終わりですか?」と聞いて「いや、実はまだ続いてるんですよ」という返答を頂いたのは、これが初めてだし、きっとこれからもないだろう。東京ゲームショウ期間全体において、筆者が個人的に最も困惑を抱き、衝撃を受けたのが、個人開発者のCobysoft Joeによるビジュアルノベル・アドベンチャー『Dome-King Cabbage』である。まず、印象に残るのがゲームのトレーラー映像にも映っている、実写とクレイアニメをミックスしたかのような独特でシュールでサイケデリックな世界観。単純に映像作品としても見入ってしまうくらいにクールな仕上がりだが、そうしていると突然、主人公のものと思わしき過去の記憶が回想され、「ほう」と思っていると、画面に現れた謎の生命体に「二つの銀河系のうち、どちらかを消し去らなければならないんだ」と選択を迫られる。そう、これはビジュアルノベルなのだ。 分かる部分と分からない部分がサイケに入り乱れていく体験にただただ圧倒されていると、今度は架空のゲームのブートシーケンスが映し出され、ゲームの選択画面が表示される(ここで筆者はスタッフに確認した)。そのまま進めていくと、そのまま架空のゲームが立ち上がり、どこか懐かしいドット絵時代のRPG『Dome-King Cabbage』がスタートする。ただでさえ理解が追いつかないのに、そのままゲーム内ゲームが始まってしまうのだから、もはやお手上げだ。だが、独特なアニメーションや、ゲーム内ゲームのアートスタイルは、そのどれもが間違いなく丁寧に磨き上げられたものであり、知覚を過剰に刺激されながらも、ずっと見ていたくなる求心力に満ちている。一体、どのような内容になっているのか想像もつかないが、試遊を終えてからしばらく経ったいまでも、この作品が気になって仕方がないのだ。
ノイ村