山本由伸「めっちゃデカい人にも負ける気はしない」 投球術を聞かれて語気を強めた瞬間
“九州四天王”
ではなぜ、オリックスは山本を発掘できたのか。 山本が指名された2016年のドラフト会議は、投手の“当たり年”だった。「目玉候補」が創価大学の大型右腕・田中正義で、5球団の1位指名からソフトバンクが当たりくじを引き当てた(2022年オフに日本ハムへ移籍)。 他に注目を集めたのが“高校ビッグ4”だ。いずれも右腕投手で、作新学院の今井達也は西武、履正社の寺島成輝はヤクルト、横浜の藤平尚真は楽天にドラフト1位で入団(寺島は2022年限りで現役引退)。花咲徳栄の高橋昂也は同2位で広島に指名された。 それからさらに13人が指名された後、オリックスの4位指名を受けたのが都城の山本だった。 高校2年秋に151km/hを計測した山本は、れいめいの太田龍、九産大付属九州の梅野雄吾、福岡大大濠の浜地真澄と共に“九州四天王”と命名された。高卒6年で球界トップに駆け上がった現在地を踏まえると、ドラフト時の評価はいささか低いと感じられるかもしれない。 逆に言えば、上位指名されない理由があった。 特に高校生は「伸びしろ」を重視されるなか、山本は周囲より小柄な点がネックになった。スカウトたちが視察に行った際、右肘の張りで何度か登板回避したこともリスク要因として考えられただろう。 それでもオリックス入団に至ったのは「縁」があったからだ。九州地区を担当していたスカウトの山口和男にとって、当時都城を率いた石原太一は同じ広島六大学リーグでプレーした後輩だった。
「これは逃してはならないピッチャーだ」
山本が高校2年生だった2016年2月某日、山口は都城に視察へ出かけた。強風が吹く夕刻、ブルペンで投球練習をするには好条件ではなかったが、それが逆に山本の資質を一つ浮かび上がらせた。 「すごく寒い中でのピッチングだったけれど、とてもバランスよく投げていました。だいたいの高校生の場合、そうした状況では寒いそぶりを見せながらのピッチングになります。でも、由伸はそういうそぶりをまったく見せませんでした。今もそうですけど、練習にすごく高い意識を持ってできる選手だなと思いました」 自身を成長させていける精神面の強さは、MLB(メジャーリーグ)では「メイクアップ」と言われて評価項目の一つになる。山口は山本の内面にも魅了され、継続的に追いかける必要性を感じた。 高校3年春時点で、山口の目には「1軍半レベル」と映った。初回から降板するまでストレートの球速は147~8km/hを維持し、内外角に球を出し入れすることができ、変化球でも腕の振りが緩まない。「これは逃してはならないピッチャーだ」と球団の会議でプレゼンを続けた。 同時に「1軍半」という評価は、1軍定着には何かが足りないということになる。 その理由として考えられたのが、耐久性だった。プロの先発投手は週に1度の登板、ブルペン投手なら最低でも2連投できることが不可欠になる。いずれの役割でもスタミナと、投球時の出力に肩肘が耐えられるように筋力や体の使い方を身に付けなければならない。 アマチュアは短期決戦だが、プロでは半年に及ぶ戦いが待ち受ける。ゆえにルーキーたちはある程度時間をかけて育成されるが、果たして長丁場のペナントレースで山本は力を発揮できるようになるのか。 そうした観点に立ったとき、「小柄」の山本が現在の姿になると想像できないスカウトが多かったのかもしれない。少なくとも、3位までの入札にはどの球団も動かなかった。