「学校をやめて結婚するべき?」ある少女は問いかけた。サヘル・ローズさんが、「美しい物語」の裏にある「傷」をさらけ出した理由
「学校をやめて結婚するべき?」少女の問い
サヘルさんがこの本を書いた一番の目的は、「世界に目を向けてもらうこと」だという。 「世界に目を向けることは、皆さんが自分と向き合うきっかけになる。外の世界を通して、あなた自身の魂の大切さや、あなたの存在がどれほどかけがえのないものなのかに気づいてもらいたいです」 本書の後半では、「世界には山ほど、かつてのあなたと同じ境遇の子どもたちがいることを忘れないで」という母の言葉をきっかけに、サヘルさんがインドやイラク、バングラデシュなどを旅した際の出来事や気持ちが刻まれている。 8章の「忘れ去られた人びとが世界にいることを知る」では、途上国の子どもたち、特に女の子たちが置かれた状況に言及した。 ウガンダの難民居住地内の学校で学ぶある少女は、「この学校に通う女の子たちも、いずれはみんな児童婚の被害者になると思う。私は意地を張って通い続けていますが、本当はやめて、結婚した方が良いのでしょうか?」と、サヘルさんに尋ねたという。 サヘルさんは、<彼女たちがおかれた現実があまりにも過酷で、答えがいまだに出ていない>と、著書で心境を明かしている。 また、アフリカの貧困地域や難民居住地を訪問する中で、サヘルさんは「途上国を貧困に追いやっているのは先進国という側面もあるのでは」と感じるようになった、ともつづっている。 <知って、気づくことがスタートだと思います。 誰ひとり、誰かの道具や、コマのようにあつかわれていい人などいない。生きた人間であって、人権を持っている。 旅をしていると、そんな当たり前のことを思わずにはいられない。> サヘルさんは、スマートフォンなどに使われているレアメタルや日頃身につけている美しいダイヤモンドが、世界のどこから来ているのかや、採掘の過程で「どんな人たちの人生が奪われているのかを調べてみてほしい」と来場者らに伝えた上で、こう訴えた。 「私たちの暮らしが世界とつながっていて、見落としている現実があると気づくこと。そして、戦地にいなくても消費者としてできることを考えて行動する。そうした積み重ねによって、たとえ戦争をなくせなくても、戦争を減らすことはできるかもしれないと私は思っています」 ♢ イベントでは、来場者やオンラインの参加者たちからサヘルさんに質問が寄せられた。 「優しさを持ち続けられる秘訣は何でしょうか?」という問いに、サヘルさんは「全ての人がそうだと思いますが」と前置きした上で、「傷つくこと」だと答えた。 「心が傷つき、痛みを感じ取るから優しくいたいなと思えるし、人に言われてつらかった経験があるから、自分はそうした言葉を言わないように気をつけることができる。痛みを知っているからこそ、他の誰かに対して思いやりを持てるのだと考えています」と語りかけた。 ▽サヘル・ローズ 1985年、イラン生まれ。7歳までイランの孤児院で過ごし、8歳で養母と来日した。主演映画『冷たい床』はイタリア・ミラノ国際映画祭にて最優秀主演女優賞を受賞。2020年にはアメリカで人権活動家賞を受賞。2024年、初めての監督作品『花束』を公開。著作に「言葉の花束 困難を乗り切るための“自分育て”」(講談社)など。