「ドクターX」の晶さんと12年でお別れ「寂しい」でも前向き 岸部一徳
色をつけないから何にでもなれる
俳優として、自分に色をつけないのだという。「こういう世界で頑張ろうとすると、個性を出さないといけない。でも自分には、キャラクター的に何もない。色をつけない方を選んで、役も僕が作るんじゃなくて、こういうキャラクターを僕がやったら面白いかなと、脚本家や演出家、プロデューサーが考えた原型みたいなものがあって、それを自分のリアリティーにつなげていく」。撮影現場でも同様だ。「初めての監督さんとは、脚本よりもこの監督は何を考えてるのか、何を一番いいと思って、何を撮ろうとしてるのかが大事。それを理解していく過程も、なかなか面白い」 半世紀以上身を置く芸能界を、一歩引いて見つめている。「芸能界は苦手ですけど、客観的に見てると面白い世界だなと思います。何を大事にして何を良しとしないか、自分で決めて試してみたいことがいっぱいあった。俳優を選ぶ側には、全然見てくれない人もいるけれど、一緒にやってみたいと言ってくれる人もいる。そういう人に向けてやっていこうと」
晶さんでいる方が楽な時も
かくして全方位全角度の役を、途切れず演じることになった。その中でも、神原晶とは長い付き合いだ。「ドクターX」は、12年10月にテレビ朝日系で放送されたドラマが高視聴率を記録、ドラマシリーズ計7作、特別ドラマやスピンオフも作られた。晶はかつて有能な外科医だったらしいが、物語の中では日がな猫を抱いて未知子らとマージャン卓を囲んでいる。未知子の派遣先にメロンと請求書を持って訪ね、報酬を手にするとスキップする。コメディーリリーフ的な存在だ。 「ここまで自分と違うと、やりやすいっていうか、不自然さは感じないですね。比較的スムーズに受け入れました」。「晶さんでいる方が、楽なときもありますよ」と楽しんで演じていた様子。ただ本人は否定するものの、横で聞いていたマネジャーさんは「似てると思いますよ」と小声で。
「米倉涼子の魅力がヒットの理由」
シリーズの人気の理由を「一番は米倉涼子さんの魅力」と断じる。米倉を「欲のない人」と評した。「評価を欲しがらない姿勢が、すごく新鮮でした。一緒に物を作っていく良さを、彼女がどんどん見つけていった」。共演はこの作品が初めてだったが、シリーズが続くうちに自身と米倉の関係性が、晶と未知子に重なったという。「俳優同士の2人と、未知子と晶がどこかで混じり合った。撮影していない間に電話で話す時も『晶さん』『未知子』と呼び合ったりして、ずっと関係性を残していました。12年続く良さは、何かが重なって進化していくことだという感じがします」 その積み重ねが、映画版に結実した場面があった。「未知子の感情があふれ出すシーンがあるんですけど、すごくうまくいったと思う。それは、一緒に過ごしてきた時間とか積み重ねたものがあって、初めて可能になった。これが2年とか3年だったら、また違うものになるんでしょうね」。シリーズ終了も、寂しいばかりではない。むしろ前向き。「終わるという決断は、主役の彼女の選択。それは前に進み新しい所に行くということで、僕を含めて一緒にやってきたレギュラーのみんなが、その背中を押す。これからの彼女がまた楽しみで、期待したい、応援したい、そういう終わり方です」 もちろん、自身も。「あと何十年もあるわけではないけれど、いいなと思う作品とか、もうちょっと頑張ってみようと思います。仕事があればですけどね、ないのにやりますって言ってもね」。あくまでも軽やかに。
ひとシネマ編集長 勝田友巳