レッドブル戦略と大宮アルディージャの未来図。派手な補強より期待したいのは、若手選手のスカウティングと強化
組織的なハイプレスと縦に速い攻撃のフィロソフィーを確立
大宮アルディージャは今季のJ3で圧倒的な強さを見せ、1年でのJ2復帰を果たし、J3優勝も決めた。 【画像】大宮アルディージャのJ3優勝が決定! 歓喜の瞬間をお届け! 躍進を続けていたシーズン中の8月に、エヌ・ティ・ティ・スポーツコミュニティ株式会社から、オーストリアを本社とするレッドブル・ゲーエムベーハーへの株式譲渡が締結されて、クラブの完全な買収が成立した。 30周年を越えた歴史でJリーグは外資によるクラブ保有を制限してきたが、国際化の波の中で、ようやく新たな一歩を踏み出した形だ。 10月1日付で会社名は「RB大宮株式会社」に変更されたが、クラブ名の発表は後日とされている。ただ、マーケティング部門の責任者であるフィリップ氏のコメント通りであれば、クラブのアイデンティティである“アルディージャ”という名前は残す方向で進んでいると見てよく、これまでレッドブルが買収し、経営してきたクラブの歴史を考えても、内面でかなりの協議と努力があったことは想像に難くない。 クラブ名はもちろん、イメージカラー、エンブレム、マスコット、WEリーグに所属する大宮アルディージャVENTUSの運営方針、将来的なスタジアム構想など、まだまだ見えない要素は多いが、今回は強化の観点から大宮の可能性を考察したい。 大手飲料メーカーであるレッドブルがサッカーの運営に本格参入したのは2005年、オーストリアのザルツブルクが皮切りとなった。SVアウストリア・ザルツブルクからレッドブル・ザルツブルクに名称を変更して、クラブの強化に乗り出してからの成績は、2006−07シーズンに10年ぶり4度目のリーグ優勝をして以降、14回の優勝を経験。昨シーズンは2位で終わるまで10連覇を果たしている。 レッドブルが強化のベースに置くのは、若手の育成環境を整えることだ。必要ならば実績や経験のある選手の補強も行なうが、基本は自前で育てたタレントをトップチームで積極的に使う方針を徹底しながら、成績をアップさせてきたことは高い評価に値する。 もちろん、スカウトの目はオーストリア国内にとどまらず、10代の選手を国籍を問わずに迎え入れて、確固たるメソッドで鍛えていく仕組みだ。 その流れを確立させたのが、欧州サッカーきっての知将として定評のあるラルフ・ラングニック氏(現オーストリア代表監督)のスポーツディレクター就任だった。2012年から20年まで、傘下クラブの育成改革とチーム強化で中心的な役割を果たし、09年に買収したドイツのRBライプツィヒと並行する形で、組織的なハイプレスと縦に速い攻撃のフィロソフィーを確立させてきた。 ラングニック氏は2018年、ノルウェーのモルデFKに所属していた、当時18歳のアーリーング・ハーランドと直接交渉を行ない、ザルツブルク移籍を実現させた。その後、ハーランドの飛躍的な成功はここで語るまでもない。 なお買収前(名前はSSVマルクランシュテット)にドイツ5部だったライプツィヒは7年間で1部に昇格し、2016-17シーズンにチャンピオンズリーグ出場権を獲得するまでに飛躍を遂げる。