歌舞伎座で8年ぶりに上演の『あらしのよるに』 中村獅童、尾上菊之助が明かす作品への思い
2024年12月3日(火) に開幕する東京・歌舞伎座「十二月大歌舞伎」。その第一部で上演される『あらしのよるに』に出演する中村獅童、尾上菊之助が、11月8日にそろって取材会に登場、舞台への思いを明かした。 【全ての写真】母親への思いを語る中村獅童 きむらゆういちによる絵本『あらしのよるに』は、国内外で多くの読者の心を掴み、今年発刊30年を迎える名作。狼のがぶと山羊のめいという、“食べるもの”と“食べられるもの”の友情の物語は、2015年、獅童主演で京都・南座で新作歌舞伎として上演、その後たびたび再演を重ねてきたが、歌舞伎座での上演は8年ぶり。獅童とこの物語との出会いは、2002年にNHK教育テレビで放送された「てれび絵本『あらしのよるに』」でのことだ。 「読み聞かせで、全動物の声を演じました。その時母(故・小川陽子さん、2013年没)と、“これは歌舞伎にできるね”なんて話をしていたんです。その後、さあ南座で何かを、となったとき、せっかくだからあのとき母と話していた『あらしのよるに』をやらせていただけたら、と始まったのがこの作品です。要するに、自分が企画を立ち上げたつもりでいたのです。が、実はその初日前日、松竹の方に呼ばれて、“2002年に獅童さんのお母さまが、いつか獅童が責任興行を打てる役者になったらと、手書きの企画書を持ってこられた”というんです。母が亡くなったあとに少しは親孝行できるかなという気持ちでしたが、またもや母に助けられました」(獅童) そんな大切な思いが詰まった作品。今回は長男の中村陽喜(6歳)、次男の中村夏幹(4歳)も出演、獅童は「初演当時は生まれてもいなかったので、思ってもみなかった」と感慨深げだ。さらに、「『自分は自分らしく、自分を信じて生きていく。そうすればあなたを信じてくれる友達ができる、仲間ができる』という台詞がある。かぶは、いじめられっ子で誰にも相手にされなくて、ちょっと気が弱くてお人好しの狼ですが、めいと出会うことによって成長していく。“自分らしく自分を信じて”。それは20代の頃、歌舞伎でまだまだお役がつかない頃に母に言われていたこと。どれだけ未来に向かって歩んでいくうえでの心の支え、勇気になったか」と振り返る。「私がこの世から去ったあとも、作品として生き続けてほしい。こうしたストーリーが多くの方たちに愛される時代になれば──偉そうな言い方になってしまいますが、もっといい時代になるのでは、という思いも込めています」。 山羊のめい役で本作に初めてのぞむ菊之助は、獅童とは10年近く共演の機会がなく、会話をすることもほとんどなかったというが、昨年3月に共演した『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』で急接近。獅童からの『あらしのよるに』出演の話を快諾、舞台のこと、歌舞伎の未来のことなど、多くを語り合う仲に。 「『ファイナルファンタジーX』以来、獅童さんは私が出演している地方の劇場にも来てくださったり食事をご一緒させていただいたりして、いろんな話をしています。ふたりの関係性、普段話していることが舞台に活かされていくのではないかと思っています。 この作品には、獅童さんの思いの強さが込められている。話を聞かせていただいて、何としてもお力になりたい、この作品の魅力を届けたいという思いは、さらに強くなりました。狼と山羊で食うか食われるかの関係ですけれど、それがどのようにして仲良くなっていくのか、丁寧に作っていけたら」(菊之助) めい役の白い衣裳をまとったスチール写真の菊之助は、まさに純粋無垢で、ファタジーの雰囲気を湛える。「愛くるしくて、美味しそうに見えないと」と笑ってみせるが、食べられるかもしれない狼に近寄っていくめいというキャラクターを、「芯の強さみたいなものがないと成立しない」と捉え、「一番大事なことは、いかに共通点を見つけるか」とも。「ふたりとも幼い頃に両親を亡くしたとか、お互いに雷が嫌いとか、 “風のうた”が好きとか、そういったお互いの共通点を見つけていって、自分らしく、信念を持って生きることができれば、乗り越えられない壁も、もしかしたら乗り越えられるかもしれない。人と人との交わりが難しくなっていく時代に、とてもふさわしい作品ではないかと感じます」。