トランプ再選で、トランスジェンダーの権利はどうなる?──連載:松岡宗嗣の時事コラム
「反トランスジェンダー法」の懸念
現在、共和党が多数派を占める多くの州で、トランスジェンダーの若者に対する性別移行に関する医療の禁止や、学校での本人の性自認に基づくトイレ利用の制限など、反トランスジェンダー法が可決されている。 今年、すでに全米で600以上の反トランス法が提案されており、45の法律が成立したという。公立学校や図書館で性的マイノリティについて取り上げた本が禁書に指定され、規制される動きも広がっている。 トランプは大統領選において、トランスジェンダーの若者に対して性別移行に関する医療を提供する病院への連邦政府資金の支給を禁止することや、連邦政府機関の性別移行を支援するあらゆるプログラムを中止すること、議会に対して「性別は2つだけ」とする法案や、全州でトランスの若者に対するホルモン療法などを禁止する法案を求めると語っている。 バイデン政権は今年、公的高等教育機関における性差別を禁止する「タイトルIX」が性的指向・性自認も含むとして、トランスジェンダーの学生にも対象を広げたが、トランプはこれを撤回しトランス学生を除外する考えを示している。 トランプを支持し、共和党へ強い影響力を持つ右派組織「ヘリテージ財団」が中心となり発表した「プロジェクト2025」には、連邦政府機関の規則から「性的指向と性自認(SOGIうや、DEI(多様性、公平性、包摂性)、ジェンダー平等、中絶、生殖の健康や権利」といった言葉の削除を求めている。 トランプは「DEI(多様性、公平性、包摂性)を促進するプログラムを排除する」ことも語っている。LGBTQ+だけでなく、さまざまなマイノリティの権利保障が後退する可能性が示唆されている状況だ。
輸入される排除言説
トランプを支援した主要人物の一人であるイーロン・マスクは、第2次トランプ政権において「政府効率化省」のトップに起用されることが報じられた。 マスクがXのオーナーになって以降、ヘイト投稿などをチェックするチームは解雇されたという。デジタルヘイト対策センター(CCDH)は、Xがヘイト投稿の99%に対応できていないとする調査結果を発表している。日本のXの状況を見ても、特にトランスジェンダーに対するバッシングが激化していることは一目瞭然だ。 マスクの娘でトランスジェンダー当事者であるヴィヴィアン・ジェナ・ウィルソンは、トランプ再選を受けて国外への移住を検討していると語った。同様に、アメリカで生きる当事者の中には、トランプの勝利を「本当に恐ろしい」と語る声も少なくない。 トランプや支持者によって拡散された反トランス言説は、トランプ勝利により“お墨付き”が与えられ、SNSを通じてさらに拡散されている。言葉だけでなく身体的な暴力も懸念される。これが冒頭の自殺防止団体への相談が700%増えたことに繋がっていると言えるだろう。 反トランスジェンダーの動きは、今後ますます日本や海外にも影響していく可能性がある。すでにアメリカの保守派による反トランス言説の多くが日本に輸入されてしまっている状況があり、さらなるバッシングに備える必要があるだろう。 「マンスプレイニング」という言葉を世に広めた、作家のレベッカ・ソルニットは、大統領選を受けて「特に過去8年間のアメリカのメディアは、ますます誤った情報を持つ市民を作り出した」と指摘している。トランスジェンダーに対する排除言説は、その多くが不安や憎悪を広めるための誤った情報であるにもかかわらず、メディアは議題として取り上げ、SNSでも規制されない。 ソルニットは、トランプをはじめ白人男性優位の構造や、主流メディアの失敗、利益のため規制されないSNSなどの問題を指摘し、「気候、人権、特に女性の権利、トランスの権利、移民の権利、そしてアメリカ経済など、あらゆるものにダメージが与えられる。このような男性たちは決して後始末をしないので、私たちや世界の人々が後始末をすることになる」と綴った。